『グエムル-漢江の怪物-』、『スノーピアサー』などポン・ジュノ作品でもお馴染みの俳優コ・アソンさん。子役から実力派俳優として活躍を続ける彼女の主演作は、優れた能力があるにも関わらず、高卒という理由から大卒社員の補助的や下っ端の役割しか与えられない女性社員達が立ち上がる、労働系女子エンタテイメント映画『サムジンカンパニー1995』だ。金泳三大統領によってグローバル元年と位置付けられた当時の韓国のムードや、実際にあった企業の汚水流出事件などの実話をベースに、今も完全に解決しているとは言えない学歴社会、企業不正、男女不平等といった社会問題を映し出し、軽やかにポジティブなエネルギーに昇華する本作。コ・アソンさんは、会社の不正に気づき、真相解明すべく奔走する主人公ジャヨンを演じている。
映画『サムジンカンパニー1995』コ・アソンさんにインタビュー。「仲間と一緒だったら怖いものはないと思える」

──コ・アソンさんにとって、この映画に参加することは、どんな挑戦でしたか?
私にとっては大きな挑戦でした。こういったモチーフで、女性3人が主人公になる映画がとても新鮮に感じられましたし、滅多にない機会だと思ったので、とにかくいい作品を、ウェルメイドな作品を作りたいという思いは強くありました。
──韓国のゴールデングローブ賞的存在である、第57回百想芸術大賞にて映画部門作品賞受賞、おめでとうございます。この作品が愛された理由について、コ・アソンさんの考えをお聞かせいただけますか?
ありがとうございます。この映画は撮影中も意味がありましたし、さらには映画が公開された後に観客のみなさんが完成してくださった映画だなという気がしています。撮影はコロナ以前にスタートしていたんですが、コロナ禍で劇場公開されることになって、にも関わらず、観客のみなさんがたくさん応援してくださいました。私のことを「ジャヨンに似ている」と言ってくださったりして、届いた応援や愛情や評価が大きな力になりました。
──ジャヨンさんは社会におけるモヤモヤに対して行動する人でしたが、コ・アソンさん自身は彼女のようなタイプだと思いますか?
ジャヨンのキャラクターが持っている正義感や彼女の内面を振り返ると、私だったら、果たして彼女のように行動できるだろうか……とは考えました。それで、ジャヨンは仲間がいたから、友達がいたからそれが可能だったのではないかという結論に行き着いたんです。もちろん、ジャヨンは会社の不正を目の当たりにして正義感を発揮して、どんどん事件を追求していきますけど、一方で不安になったり自分にできるだろうかと悩んだりしていたわけですよね。そういうときに友達がいてくれたからこそ、彼女は勇気を出して突き進むことができたのかなと。なので、私も仲間や友達と一緒だったら怖いものはないと思えるタイプです。
──3人の友情だったり、終電に間に合うように走るシーンもなぜか胸が熱くなってしまいました。
まさにおっしゃる通りで、私も撮影中、楽しいシーンであるにも関わらず涙が出てしまったんですよね。特に、地下鉄のシーンは撮影が終わった後に泣いてしまうくらい気持ちが高まりました。どうしてこんなに胸が熱くなるんだろう?と自分でも不思議に思ったんですが、公開後に、たくさんの観客のみなさんが「あのシーンを観て涙が出た」とおっしゃっていたのを聞いて、この映画はただ笑って観るというだけの作品ではないんだと改めて感じました。もちろん、悲しいだけの映画でもないんだけど、「仕事をする女性が抱えている悲しみを、楽しく慰めてくれる」というレビューをしてくださった方がいて、その言葉が今も深く胸に残っています。
──3人だけでなく、会社の中で女性であるだけで能力を正当に評価されてこなかった女性たちの連帯も描かれていますね。
冒頭、主人公が雑用をしているシーンがありますよね。その時代の描写としてそれだけで終わってしまっていたら、単なる前例踏襲になっていたと思うんです。でも私には、今を生きているイ・ジョンピル監督の姿勢としてこのシーンを撮っていることが感じられました。というのは、課長が出てきて、「自分の仕事をなぜ他の人にやらせているんだ?」と男性社員に言う台詞が加わっていたから。その一言が入ることによって、単に雑用をしているのではなく、作り手の姿勢や心構えが絶妙に表れたシーンになっている気がしました。作品を通して、“今”の姿勢が盛り込まれていたのはとてもよかったですし、映画の組み立てとして、そうすることが本分だとも思います。
──また、新たな言葉=英語を学ぶことでエンパワーメントしていく女性たちの姿もフィーチャーされています。国際的に活動されているコ・アソンさんですが、あまり流暢でない英語を話すことは大変ではなかったですか?
確かに、グローバルプロジェクトに参加して英語を使うことはありましたが、私はそんなに英語はうまくないんです(笑)。すっかり忘れてしまっているくらい。ただ、映画の中のジャヨンは、流暢な英語を使いたいと思ってはいるんだけれど、そこまでの実力がないことを見せるというのが、今回の演技の鍵でした。90年代の英語教育の資料を見ると、現代の教育とはだいぶ違って、アクセントに重点を置くような発音の教え方をしていたそうなんです。だから、今だったら自然に発音する部分も、抑揚を強調するようにしていました。まるで、歌うように英語を話すことによって、流暢に話したいと彼女は思っている。そういうところを見せようと思いました。
──発音がネイティブのように完璧であることよりも、思いが伝わることが重要なんだと思わせてくれました。
実は、私もそこは努力した点でした。最後にとっても大切なことを英語で言う台詞があるのですが、映画の中でジャヨンが英語力まで成長したんだというところは見せたくなかったんです。格好よく流暢に話す姿ではなくて、最後までちょっと英語が下手なままのジャヨンで貫きたいと思いまして、そこはかなり気を使って英語の発音をしています。
──子役時代から俳優を続けているコ・アソンさんの原動力ってどこにあるのでしょうか?
2つあると言えますね。ひとつは、私自身の内部にあるモチベーション。普段頑張って責任感を持って一生懸命仕事をしている女性たちに会っていなかったら、今回のジャヨンの役もできなかったと思います。私が周りで見てきた姿だったり、私が感じたことを表現できるのが私にとっては喜びになっています。もうひとつは、外部からいただくモチベーションです。映画が公開された後に私が撮った作品を観てくださった観客の方から、私の努力を認めていただいたとき、そして努力を理解してもらえたときにすごく気持ちが高まる。私が思っていたよりも鋭く作品を見抜いてくださる方もいて、そんなときには言葉にならないくらいのモチベーションを感じることもあります。それを思うと、『サムジンカンパニー 1995』はその2つを満たしてくれた作品と言えますね。先ほど「外部」という表現をしましたが、この作品を愛してくださった観客のみなさんから、「時代ものであるにも関わらず共感できた」という言葉をたくさんいただいたときに、本当に胸がいっぱいになりました。
──最後に、ご自身が役者として生きるなかで指針としている言葉があれば、教えてください。
ちょっと口にするのが恥ずかしいんですけど、プラトンの言葉の中に、「No human thing is of serious importance」という、人間のどんなことも、そこまで真剣に重要ではないというような意味の一節があるんです。まさにこれが『サムジンカンパニー 1995』という作品に臨んだときの私の気持ちを表してくれています。私はシリアスになりすぎる傾向があるのですが、そうじゃなく心を開いて楽な気持ちで臨むとさらに道が拓けてくるときってあるんですよね。大変なときにはこの言葉を思い出すと余裕ができてくる気がして。なので、あまりにも真剣になりすぎてはいけないと、心を楽に開くようにはしていますね。
『サムジンカンパニー1995』
1995年、ソウル・乙支路(ウルチロ)。サムジン電子に勤める高卒の女性ヒラ社員たちは実務能力は高いが、主な仕事はお茶くみや書類整理などの雑用ばかり。しかしそんな彼女たちにも、会社の方針でTOEIC600点を超えたら、「代理」に昇進できるチャンスが到来する。ステップアップを夢みて英語を学ぶ彼女たちだったが、偶然、自社工場が有害物質を川に排出していることを知る──。
監督: イ・ジョンピル
制作: パク・ウンギョン
出演: コ・アソン 、イ・ソム、パク・ヘス、ペク・ヒョンジン、キム・ジョンス、デヴィッド・マクイニスほか
配給: ツイン
2020 年/韓国/110 分/シネスコ/5.1ch/原題:삼진그룹 영어토익반/字幕翻訳:小⻄朋子/提供:ツイン、 Hulu/
7月9日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
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コ・アソン
1992年、韓国、ソウル出身。2004年からテレビドラマで俳優活動をスタート。ポン・ジュノ監督・脚本作『グエムル-漢江の怪物-』(06)で一躍有名になった元子役。出演作に、ドラマ「風の便りに聞きましたけど!?」(15)、「深夜食堂-Tokyo Stories-」(16)、自己発光オフィス~拝啓 運命の女神さま!~」(17)、「ライフ・オン・マーズ」(18)、映画『スノーピアサー』(13)、『ビューティー・インサイド』(15)、『正しい日 間違えた日』(15)、『戦場のメロディ』(16)などがある。現在、3年ぶりのドラマ出演となる心理追跡スリラー「クライムパズル」の撮影真っ只中。