ソロアーティストとしてはもちろん、millennium parade、Black Boboiのメンバーとしても活躍し、映画『竜とそばかすの姫』では初の声優に抜擢され、活躍の場を広げているermhoiさん。2021年12月15日、ニューアルバム『DREAM LAND』をリリースしました。アルバムのこと、ジャンルも地域もさまざまな音楽的ルーツのこと、そして、愛してやまない映画のことなど、3回に分けてたっぷりインタビュー。2回目は、クリエイティブ面で影響を受けた音楽や土地について聞きます。前回のインタビューはこちら。
ermhoiさんニューアルバム『DREAM LAND』インタビュー。Vol.2 音楽的ルーツは“つまみ食い”。民族音楽を求めて旅したイタリアのこと
──いちばん影響を受けた音楽はなんですか?
うーん。「これがいちばん!」というのはあんまりないんですよね……。
──やっぱりエレクトロニカですか? エクスペリメンタル系とか。
ではないんです。高校のときはベイルートが好きだったし、キングス・オブ・コンビニエンスとか、ファイストとか、ココロージーとか、そういったオルタナティブロック系のものをよく聴いていて。そもそもやりたかった音楽も、電子音楽である必要性があるのかというとそうでもなく。たまたまそこにパソコンがあって自分で触れたら楽しかった、っていうぐらいだったので。そこから、ロバート・リポックとか、ローレル・ヘイローとか、ホーリー・ハーンダンとか、エクスペリメンタルだったりしつつ、ダンスミュージックではないエレクトロニカミュージックをやっている人たちの音楽をよく聴くようになって。
──やはり重層的ですよね。いろんな音楽がミルフィーユのように重なって。
いまやっている音楽もそうですが、基本、つまみ食い(笑)。いろんな音楽が好きだし、いろんな音楽の要素を取り入れたいんです。あらゆるものを混ぜて、配分変えたらこうなりました、みたいな感じがいまの私のスタイルになってるんじゃないかなって。
──ところで、お母さんの実家のアイルランドはよく行き来してるんですか?
2〜3年に1回くらいですね。最近はコロナで行けてないですが。
──アイルランドの音楽からもインスピレーションを?
音楽もそうなんですが、どちらかというと景色の印象のほうが強いですね。いつも天気がどんよりしてるから、ちょっとグレーで、緑が多くて、岩があって、湿ってて、塩臭くて、牛や羊がいっぱいいて。そういう景色。
──確かに。というのも、『DREAM LAND』を聴いていて、そういう荒涼とした景色が浮かんだんです。アイルランドの景色に安心感を覚えたりしますか?
それはありますね。すごく複雑な地形なんですが、平坦っていう。埋立地とどこか共通する部分があるのかもしれない。
──アイルランドって、映画などで観ると、岩が切り立っていて、でも平坦で、突然カクンと海になっていて。そういう場所が多いですよね。
そうなんです。なんか不思議な地形なんです。母の故郷のダブリンはアイルランドの中では都会なんですけど、車を走らせれば20分ぐらいで、丘の上で羊が横切ってる、みたいな世界なので(笑)。
──もしかしたら、そういった景色がDNAに。
影響あるかもしれませんね。あんまり考えたことがなかったけれど。
──大学時代にイタリアへ留学していたそうですが、なぜ、イタリアだったんですか?
イタリア語を勉強してたんです、大学で。せっかく勉強しているんだから、1年ぐらい休学して、イタリアへ行ってみようと。民族音楽も勉強したいなとも思っていたので。
──イタリアの民族音楽ですか?
民族音楽について講義を受けたいと思った先生が、バルカンミュージックとイタリア南部の音楽が専門の人なんですが、ボローニャの大学にいて。彼の授業で出会った友達が、イタリア各地のお祭りや、伝統的なダンスや音楽に興味がある、すごくユニークな子たちだったんですよね。年中旅をしては、各地域のお祭りに参加してたから、私も一緒に連れてってもらったりしました。
──へえ〜! どんなお祭りがあるんですか?
カンタマッジョという5月のお祭りがあって。おそらく、作物の豊穣を願うお祭りなんですが、イタリア各地で催されるんです。私たちが行ったのはマルケという州。イタリアって長靴みたいな形をしているんですが、その東側、長靴のふくらはぎの辺りのエリアなんですが、丘が連なってるところで、みんなでワインを飲みながらダンスをして。
──なんだか素敵ですね。どんなダンスを?
いわゆるフォークダンスです。すごく楽しかった。あとは、聖燭祭という祝日の頃にナポリのほうにも行ったり。イタリアってカトリックの国なので、宗教的には同性愛やトランスジェンダーが認められていないんです。でもその地域では、フェミニエッリと呼ばれるジェンダーマイノリティの人たちが幸運をもたらす存在だと言われていて、聖燭祭ではLGBTQの人たちがグループを組んで堂々と教会に入ることができるので、全国から注目されていて。
──普段は公には教会に出入りができないんですね?
残念ながら入っちゃいけないんです。伝統的な社会なので。その地域だけは特別なんです。そのときに、トランスジェンダーのグループを追ってナポリに行ったんですが、いちばんグッときたのは、現地の少年たちの演奏だったんです。
──少年たちの楽隊ですか?
そう。アコーディオンで現地の音楽を奏でるんですが、彼らはたぶん、幼少期からずっと、その演奏を続けていて。おそらく、自分の意志とは関係ない次元でやり続けている。演奏してるときの表情がヤバいんですよ(笑)。恍惚として。
──ああ、ちょっとイッちゃってる感じの(笑)。
なんというか、トランス状態みたいになってるんですね。その姿を見たときに、言葉では言い表せない、すごい気持ちになったんです。民族音楽って、伝統文化だから物心もつかない頃から始めるし、結果、すごい技術を身につけることになって、未知の領域に入り込むようになるというか。だからきっと、普通の人には見えない世界が見えるんだろうなって。そこに憧れを抱いて、私も民族音楽を学ぼうとしたんですが、ナポリの少年たちの姿を見たときに、外部者である私は絶対に得ることができない感覚だろうし、外から簡単に触れてはいけない世界だなって。でも、音楽がすごくかっこいいので、いまでも大好きではあるんです。
──じゃあ、そういった民族音楽もermhoiさんの音楽には重なっている。
そうだと思います。今回のアルバムの10曲目、「Mountain Song」のイントロ部分に男性たちが叫んでるかのような歌声をサンプリングしたんですが、それもイタリアのお祭りで録音したものなんです。私はキリスト教徒ではありませんが、その声にめちゃめちゃグッときて。とにかく、エネルギーがすごいなって。
──アイルランドも民族音楽が盛んです。アイルランド民謡はポップソングとなって、それとは知らずに歌われている曲もありますし。「ダニー・ボーイ」とか。
アイルランドってパブに行くとみんな歌いたがるんです。「私の声を聴いて!」みたいな感じで(笑)。でも、アイルランドの歌って悲しい歌がすごく多いんです。海に囲まれた小さな島なので、漁港がたくさんあるし漁師さんも多い。ということは、海で命を落としてしまう人も多いんですね。すると歌も、亡くなった人を想う歌が必然と多くなるんです。
──自然に対する畏敬の念もあるでしょうね。
ですね。アイルランドでもちゃんと勉強したいなとは思ってるんですが、なかなか実行に移せなくて。最近、アイリッシュハープを買ったんです。
──へえ〜!
練習を始めました。いざ現地に行ったときに、その先に踏み込めるように(笑)。
──あ、そうだ、ermhoi(エルムホイ)という名前はどこから? もちろん本名ではないですよねえ(笑)。
本名ではないです。特に、意味はないんです。自分の名前のアルファベットを並べて入れ替えて、みたいな(笑)。
──アナグラム?
みたいな感じです。音楽活動を始めたとき、作品をSoundCloudにアップするのに名前を決めなくちゃいけなくて、そのときに。2分くらいで決めました(笑)。語尾に「ホイ」をつけたかったんです。「ホイ」ってなんか、力が抜けるじゃないですか(笑)。結果的にいい名前だったなって。
INFORMATION
ermhoi『DREAM LAND』
2021年12月15日発売
PECF-3263 / ¥3,300
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ermhoi
日本とアイルランド双方にルーツを持ち、独自のセンスで様々な世界を表現する、トラックメーカー、シンガー。2015年、1stアルバム『Junior Refugee』をSalvaged Tapes Recordsよりリリース。以降イラストレーターやファッションブランド、映像作品やTVCMへの楽曲提供、ボーカルやコーラスとしてのサポートなど、ジャンルやスタイルに縛られない、幅広い活動を続けている。2018年に小林うてなとjulia shortreedと共にBlack Boboi結成。フジロック19’のレッドマーキー出演を果たす。2019年よりmillennium paradeに参加。2021年3月にデジタルシングル「Thunder」をBINDIVIDUAL Recordsよりリリース。8月に「Mountain Song」、10月に「埋立地」と立て続けにデジタルシングルをリリースし、12月15日にニューアルバム『DREAM LAND』をリリース。
Photo: Kaori Ouchi Text: Izumi Karashima Edit: Milli Kawaguchi