障がい者施設を襲い、入所者たちを殺傷した実際の事件をモチーフにした、辺見庸による小説『月』が石井裕也脚本・監督で映画化された。森の奥にある重度障がい者施設で職員として働き始めた堂島洋子を支える夫・昌平を演じたのは、『舟を編む』以降、石井監督とは五度目のタッグとなるオダギリジョーさんだ。社会や個人が“見て見ぬふり”をしてきた現実をつまびらかにする本作に参加した、オダギリさんの思いとは?
オダギリジョーにインタビュー
「人にどう届いたかよりも、そこに向かって頑張る、真剣に向き合うことが、自分にとっては重要かもしれない」
——例え目を逸らしたくなるような辛いものであっても、自分たちが関係する現実の問題を見据える、という意思を感じさせる作品でした。オダギリさんは、石井裕也監督の映画への取り組みかたや視点に関して、どんな印象がありますか?
毎回、深く掘り続けて、可能な限り奥まで辿り着きたい、という意思を感じます。描かれるテーマが何であったとしても、そこで挑戦することをやめないという強さですね。そして、突き詰めた何かを自分なりに噛み砕いて表現していく中に、言葉の使い方も含めた鋭さのようなものがあると思っています。世の中も人も、わからないものだらけですけど、それでも諦めないでぶつかっていくタイプなんじゃないですかね、石井監督は。それと、誠意を感じますよ。いつも本気で映画に対して情熱を持って、真摯に向き合っているなと思います。
——2016年に、障がい者施設「津久井やまゆり園」で起きた事件をベースにした原作からインスパイアされた作品ということで、覚悟を決めながらも、苦しみながら取り組み、役者にも同じくらい苦しんでくれる人たちと一緒に舟に乗りたかったと石井さんも振り返っていましたが、役者として現場にいるときに、そういう苦しみについて話し合うこともありました?
話し合うというよりも、感じ取ることの方が多かった気はします。今回の作品を撮るうえで、石井さんの大変さは想像していたので、僕ら俳優は、監督が求めるものをできるだけ理解して、表現することに勤めるのみでしたね。言葉にしてしまうと、意味が断定されすぎてしまうじゃないですか。演出という意味でも、あまり言葉で説明すると、その部分だけに意識が行き、他が疎かになる場合がありますからね。僕自身としては、言葉で説明したがる演出家は苦手ですね。
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Photo _Yuka Uesawa Stylist_Tetsuya Nishimura Hair&Make-up_Yuki Shiratori (UMiTOS) Text&Edit_Tomoko Ogawa