ケイリー・スピーニーとプリシラ本人。Photo_REX/Aflo
14歳で初めてソフィア・コッポラ作品を観て以来、憧れの監督であったと語るケイリー・スピーニー(Cailee Spaeny)。プリシラの変化を見事に演じきった彼女に、ファッションの効用やプリシラ本人から授かった言葉についてたずねた。
映画『プリシラ』主演女優にインタビュー
ケイリー・スピーニーとプリシラ本人。Photo_REX/Aflo
14歳で初めてソフィア・コッポラ作品を観て以来、憧れの監督であったと語るケイリー・スピーニー(Cailee Spaeny)。プリシラの変化を見事に演じきった彼女に、ファッションの効用やプリシラ本人から授かった言葉についてたずねた。
──ソフィア・コッポラの作品は、衣装がいつもファッショナブルですが、それは役作りにどう活かされましたか?
「衣装はすべて、本当にすごく大事で、そのおかげで、今何歳の彼女を演じているのかとか、どんな時期にいるのかが分かりました。私は、彼女の14歳から27歳までを演じたのですが、実はこの映画は撮影日数が30日しかなくて、かなりめちゃくちゃな時系列で撮影しました(笑)。例えば、朝の撮影では妊娠していたのに、ランチの後には14歳を演じるなど。だから、本当にヘアや、メイクや、衣装が、私の役作りの基盤になりました。衣装デザインをしたステイシー・バタットがプリシラのために用意してくれた洋服が、本当にカッコよくて感動的で。私の衣装の方が、脚本のページ数より多いかと思うくらいあって、衝撃でした。そしてその装いが、彼女の心情を知る手がかりにもなりました。冒頭では、ペチコートにソフトピンクの服を着ているけれど、エルヴィスに出会った後は、彼がプリシラにどんな服を着てほしいのかはっきりと言っている。だから、メイクもヘアもファッションも彼の決まりに従わなくちゃいけなかった。でも、彼女が自己を確立した後は、その決まりを破るようになる。だから衣装やメイクやヘアには、彼女の心境の変化や成長の旅路が映し出されていると思うんです」
──一番好きだった衣装はありますか?
「シャネルが作ってくれたウェディングドレスは、やはり息をのむほど美しかったです。フランスまで行かせてもらい、フィッティングをして仕上げました。完成したドレスが結婚式の撮影時に届き、それを着た瞬間に、ものすごくスペシャルな気持ちになりました。そして、ドレス姿で登場すると、共演者もスタッフもみんな大興奮。本当にプリンセスにでもなったようでした」
──ヘアメイクもかなりしっかりとされていますが、それはどうでしたか?
「メイクとヘアは、ものすごく楽しみました。これ以外の作品では、メイクはもっと平凡で、していないように見えるようなメイクをすることの方が多いんです。だからこの映画のようなことはめったになくて。おかげで思い切りのめり込めました。ヘアも大きいし、アイライナーも長いし、めちゃくちゃ楽しくて、毎日自分が着せ替え人形にでもなって、おしゃれを満喫しているみたいな気分に(笑)。最高でした」
──家族はエルヴィスの大ファンなのですよね?
「そうなんです。だから子どもの頃に、家族旅行でグレースランドにも行ったことがあって、それを今でも鮮明に記憶しているし、父が泣いていたから、家族にとってどれだけ大事なことだったのかも覚えているんです。母は、エルヴィスのグッズも集めていました。それに私は南部の出身なのですが、南部の人たちにとって、一般的にエルヴィスは偉大な存在なんですよね。大のエルヴィスファンの家庭で育って、もちろんプリシラのことは知っていたし、二人がロックンロールのキングとクイーンだと知っていたけれど、彼女の人生についてはまるで知らなかったんです。これまで語られてこなかった物語に、映画へ出演することで飛び込めて、ものすごくうれしかったんです」
──撮影前にプリシラ本人に会って話を聞いたそうですが、大事だったことはありますか?
「プリシラには、二人の間に愛があることがしっかりと伝わるようにしてほしいと言われました。映画を観たら、二人の関係性や、いつどこでどんなふうに会ったのかという出会い、とりわけ彼女が何歳だったのか知って、衝撃を受ける人もいると思うんです。でも、二人が本当に愛し合っていて、お互いを大切に思っていたのだとわかると、そう簡単な問題でもなくて、また別の次元で話が展開していくはずと」
──ソフィア・コッポラの作品には共通して、巨大な世界に囲まれた孤独な女の子の姿と、そこからいかに自分を見つけて成長していくかを描いた物語が多いように思います。今回演じたプリシラにもそのようなことはありましたか?
「もちろん感じました。それがソフィアの作品の特徴だとも思っているし、私が14歳で『ヴァージン・スーサイズ』(99)を初めて観て、すぐに彼女の映画に夢中になったのも、それが理由でした。彼女は、幼い女の子の抱えた闇や願望を恐れずに描くし、その存在を過小評価したりしない。ソフィアがそんなふうに若い女性を描くのを観て衝撃を受けたんです。この作品にも彼女がこれまで描いてきた女性像と共通するところがあるし、主人公がいかに自分を見つけていくのかが目撃できるものだと思います。プリシラが自分を見出すまでの旅路は、すごく孤独で、それもソフィアの作品の世界観に通じるもので。私が初めてソフィアの映画に触れた時、自分の中の殻が割れて、自由になれた感じがしました。だから若い女の子たちがこの映画を観た時に、同じような体験をしてもらえたらうれしいなと思います。ミズーリ州南部で、彼女の映画を観て育った子どもにとっては、ソフィアは夢の監督でした。私にとってすごく大きな意味を持つ人で、だからこれは、夢が叶った作品なんです」
ケイリー・スピーニー>> 1998年生まれ。『パシフィック・リム: アップライジング』(18)で長編映画デビュー。本作でベネチア国際映画祭最優秀女優賞受賞。写真はプリシラと。
4月12日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。エルヴィスを演じるのは、オーストラリア出身の新鋭ジェイコブ・エロルディ。
Text_Akemi Nakamura