フランス発のジェエリーブランド〈ミラ ステラ/Mira Stella〉が、「アーツ&サイエンス」にてデビュー。デザイナー兼ファウンダーのソフィ・ブイレ=デュマに話を聞きにいくと、「私は “デザイン”はしていないのです」と笑う。老舗食器店〈クリストフル〉の創業家出身でもある彼女の口から語られたのは、植物への深い愛とオマージュだった。
金細工で植物への愛を語る〈ミラ ステラ〉
自然を映し取ったようなジュエリーが日本に上陸
繊細で精巧。まるで、アジサイの花や亜麻のサヤが魔法で金に変えられてしまったかのようだ。〈ミラ ステラ〉は18Kローズゴールドを主な素材として、植物の種や花びらを作り出している。大きさも形も葉脈までも、すべてを実物に忠実にトレース。これを、単に「植物をモチーフにしたジュエリー」と呼んだら、きっと語弊がある。
「自然が作ったすばらしい造形、そこに内包される生命に永遠性を与えたい。それが〈ミラ ステラ〉を立ち上げた理由です。植物をそのまま“コピー”しているので、私はいわゆるデザインはしていません。強いて言えば、デザイナーは自然そのもの、ということになるかもしれませんね」
来日中のソフィ・ブレイ=デュマにクリエイティブの過程を尋ねたら、そう笑った。〈ミラ ステラ〉の着想源は、彼女がノルマンディの別荘に造った庭。コレクションに登場するのは、ほぼすべてソフィが育ててきた植物だ。19世紀から続く銀食器ブランド〈クリストフル〉の創業者家出身である彼女にとって、植物への情熱は家族で共有されてきたものだという。
「小さい頃に〈クリストフル〉のアーカイブでボタニカルモチーフを使ったものを見て感動したのを覚えています。また、私の母やその祖母も、ガーデニングが趣味でした。15年ほど前に私も庭づくりを始め、あまり注目されてこなかった、 “忘れられた”植物に光を当てたいと思うようになったのです」
店内には、ジュエリーに変化(へんげ)した草花が並ぶ。
「まず、アジサイのシリーズ。これは庭で初めて栽培した花で、ヒドランジア マクロフィラという種です(*註1)。私にとっては、庭づくりの始まりを象徴する存在。コレクションでは、花びら(*註2)の形はもちろん、花脈やテクスチャーも再現しています。4枚の花びらをのせたリングでは、艶とマットと二つの質感を採用。風に吹かれたときの一瞬の動きを、ビジューの中に閉じ込めたいと思ったのです」
*註1 日本原産のアジサイの学名がヒドランジア マクロフィラ。
*註2 アジサイの花は機能的にはガクであり、装飾花と呼ばれるもの。
ブレスレットやネックレスでは、従来のアジサイのイメージから少し離れ、花びら一枚一枚を配置。細部にズームする視点にこそ、ソフィの感性が溢れている。着眼点もまさに植物学者のそれで、ジュエリーに変身するのは、機能美や生命力を感じさせるあらゆるディテールだ。
たとえば、ケールの仲間「シーケール」の種子を再現した作品たち。
「“種”と聞いたときに人が想像するような、まさに種!という形状が美しい。でも私は見た目だけでなく、この草が持つ効能や歴史にも惹かれているんです。アブラナ科の植物は、人類が初めて栽培した野菜だと言われています。新石器時代にまで遡るとか。そんな物語が詰まった種子は、〈ミラ ステラ〉のシグネチャーです」
このラインでは、胡椒の実も組み合わせる。胡椒のアイデアが生まれたのは、庭ではなくキッチンだった。
「台所で転がっているのを見て、なんてかわいらしい形だろう、と。今度はこれをジュエリーにしたいと思い、すぐに職人に実を送りました。色も素材も本物に近づけたかったので、木で黒く作ってもらうようお願いして。そうして出来上がったサンプルと、私が参考に渡していた実物とが一緒に家に届いたのですが、そのとき、どちらがどちらか全く見分けがつきませんでした!」
ほかにも、亜麻のサヤやアトリプレックス(ヤマホウレンソウ)の種子がソフィを魅了した。
「これらは風をはらむ構造を持っていて、海を超えて遠くまで飛んでいきます。地球のいたる所に子孫を残すため、いわば、"世界を征服する"ため、ですね(笑)。植物は本当に賢いと、感嘆してばかりいます」
Photo_Wataru Kitao Text_Motoko KUROKI