「女性にはふたつの種類があるんです。『メス』と『人間』です。ファッションはメスのものという認識だったので関心がなかったんですね。私はメスカテゴリーではないので。ならば人として面白いファッションをしたい、それでミリタリーに興味をもったのが最初です。でも最近のパリコレを見ていると、発想が奇抜でユニークで、いわゆるモテやユルといったメスとは関係のない世界。すごく攻めてるなって。拡張された人間のファッションだと思いました」
ファッションが人間の可能性を広げている、ということですか?
「保温保湿、冷却といった機能はすでにありますが、ウェアラブルな記憶デバイスや医療デバイス、ハイテクな義手や義足といったものまで、これからはどんどん拡張する方向だと思うんです。そもそも人間は裸の状態ではその人として認知されません。着るものが一体となってその人が表現されるんです。私だったら、このカツラを含めた拡張された状態で中野先生と認知されるわけです」
そう、彼女はメディアに登場するときには必ずボブの黒髪ウィッグを被る。本来の自分とは一線を画した中野先生としてコメントを述べるための〝ペルソナ〟である。ウィッグの中には、ときには金、ときには赤のロックな髪形が隠されている。
「でも、ペルソナは変えられないものではないんです。バラエティに出るときは黒くて長い髪を被るんですが、みんなカツラだと知っているはずなのに、男の人たちの反応が丁寧なの(笑)。彼らは無意識に反応を変えるんですよ。ウケるでしょ」
ところで。今回の『GINZA』の特集キーワード「クレイジー」について彼女は何を思うか尋ねてみた。
「わくわくするものであると同時に、クレイジーと呼ばれ共同体から排除された人たちの心のきしみを感じてしまいます。多くの人は、普通でいられることの幸せを無意識に享受し、その幸せを享受し続けるために排除されない行動を無意識のうちにとるんです。でもクレイジーな人は、自分のきしみを回避しない。きしみと向き合いそれを表現しようとする。そこに私は共感し同情するんです」