名作が生まれるところには、ドラマのために熱く動く“仕掛け人”たちがいる。脚本家や監督、プロデューサーという立場から挑戦を続ける4名の考えていることを聞かせてもらった。#ドラマシーンを盛り上げるクリエイターの頭の中
『虎に翼』脚本家・吉田恵里香の頭の中
5年後、10年後に意味のあるドラマに
脚本家・吉田恵里香

creator’s rules
吉田さん
1.作品に取り掛かるときは願掛けのために髪を切らない
2.脚本には自分の意志を120%入れる
3.仕事は複数の案件を並行して手がける
interview
「みんなにとってのハッピー」を目指さない
──『虎に翼』(NHK)の脚本を書き終えた今、初めて朝ドラを手掛けた感想を聞かせてください。
「朝ドラはずっと夢だったので、今この時期にやれたことがすごくうれしいですね。これが5年前でも5年後でも、違う題材になっていたと思います。『恋せぬふたり』という作品が放送されたすぐ後にオファーをいただいたんです。ということは、この作品で描いた日の当たらない人、省かれてきた人たちへの視点を評価してもらえたのかなと。だから、朝ドラでもそこを描こうというところからスタートしました。『朝ドラを書くならこんな題材で』とずっと妄想していましたけど、全く違う方向のものになりました」
─ちなみに、どんな妄想を?
「有吉佐和子さんの『紀ノ川』のような作品が書けたらと。祖母・母・娘、女性三代の話なんです。だからまさに3人のヒロインを描いた『カムカムエヴリバディ』が始まった時にはショックで(笑)。でもあれは藤本有紀さんならではの素晴らしい作品でした。今回スタッフの皆さんとの話し合いの中で、『虎に翼』という、一人で考えていたら絶対に書かないものを形にできたのは、本当によかったなと思います」
──『虎に翼』で描かれていたのは少し前の時代ですが、観ていると今も変わらないことがたくさんあるなと思います。
「脚本を書くために当時のことを調べていくと、問題視されていた法律が今もそのままになっていることがとても多くて。エピソードが『めでたしめでたし』で終われない。特に中盤から後半は物語にどう爽快感を出すか、迷うことが多くありました。それでも、答えの出ていない事件や出来事にも触れていこうと。もちろん、ケリのついていないことには触れずにまとめる方法もあったと思います。でも、今の私たちの生活とリンクしていることを無視するのは、誠意がないだろうと」
──たしかに「よかったね」で終わらないようなことも、たくさん描かれていました。
「朝ドラは視聴者が幅広いので、みんなにとってハッピーなものを書くべきなのかとも悩みました。でもそれは結局マジョリティに与することになる。そこにカウントされない人たちにとってはハッピーとは限らない。そう思ったら書けなかった。マジョリティはそれだけで優位性を持ってしまうじゃないですか。ただそのことを描くと、過剰に反応する人がいるんですよ。でも、さまざまな価値観の過渡期である今を生きている以上、私はこれまで省かれてきたものをちゃんと描きたいなと」
──それは大きな決断ですね。
「もちろん、私一人でできることではなく、今回のチームだから実現したことではあるのですが。たとえ今『ん?』と思われても、5年後、10年後に世間が振り返ったら、意味を感じられるドラマになればいいなと思いました。例えば、坂元裕二さんの『問題のあるレストラン』。放送当時はセクハラやパワハラがまっすぐ描かれていることに批判もありましたけど、私は観て勇気をもらったし、こんな作品を書きたいと思いました。誰かに怒られるとしても書くべきドラマというものがあると、私自身、坂元さんの作品や渡辺あやさんの『エルピス─希望、あるいは災い─』などを通じて感じている。技術はお二人には敵わないけど、私も自分なりにそういうドラマを書いていきたい」

Photo_Wataru Kitao Hair&Make-up_Takae Kamikawa (mod’s hair) Edit_Motoko Kuroki Text_Fumie Tsuruki