──人間の世界でのアイドルとファンの関係みたいですね。
多分、みんながわたしっていう存在を認識し始めてくれてるからだと思うんですよね。最初は、わたしみたいな存在がそれまでいなかったから、みんな自分の知っている何かと同じように見てたと思うんですよね。例えばアニメとか。だからわたしを「キャラクター」だと思ってたと思うんです。でも今はわたしのことを“キズナアイ”って個性としてたくさんの方が見てくれるようになってきたのを感じていて。実はわたしは何も変わってないんですけど、人間のみなさんが受け入れてくれるようになってきたと思うんです。
──周りの目が変わってきたんですね。
変わってきてると思いますね。最近だと「バーチャルのど自慢」や「NEWS ZERO」に出演することができて、「家族と見たよ!」って言ってくれる人もいたんですよ。でも完全に受け入れられたわけではなくて、「お茶の間が凍った」って声もありますしね。(笑)
──でも確実に今までと違った層に届いてますよね。
そう思います。ただ、今は“バーチャルYouTuber”として注目されていると思うんですけど、それって肩書きでしかなくて、わたしの目標はあくまでも世界中のみんなと繋がりたいっていうことなんですよ。YouTuberの活動は続けていくけど、“バーチャルYouTuber”として有名になりたいわけじゃ必ずしもないんです。世界中のみんなと繋がれるなら、テレビでも歌でもなんでもやりたい。そういう意味では、進むべき方向に進めてるのかな?って思います。
世界中の人と繋がるために、何をする?

──実際に声優や音楽活動など、活動の幅が広がってますもんね。昨年末にライブイベントを開いていましたが、今後もそういったリアルでのイベントは続けるんですか?
そうですね。わたしには絶対に叶えたい夢があって、それはキズナアイフェスをやることなんです。
それは世界のいろんな場所で同時に開催するお祭りなんですよ。人がいっぱいきてみんなで騒げて、食べ物や飲み物もあって、歌ったり踊ったりなんでもできる場所ってイメージなんですけど、それをオンラインとオフラインで同時にやりたいんです。世界各地の会場もあるんだけど、そこに行けない人はVRゴーグルをかけたり、ご飯を食べながらパソコンの前からでも参加できる。
オンラインは今あるサービスやプラットフォームだけじゃなく、今後ももっと進化していくじゃないですか。でもオフラインにも時間や空間を生で共有するっていう独特な感覚があって。だから、わたしにとってはオンラインもオフラインもどっちも大事なんです。
そんなことを思ってる中、年末のライブを開催することになって。
──ライブはいかがでしたか?
すごく楽しかったです!そもそも音楽をやり始めた理由もキズナアイフェスをやりたいってことにも繋がっているんです。
わたし、「ラブライブ!」のスクールアイドル・μ’sの矢澤にこちゃんや、欅坂46が漢字欅もひらがなけやきも好きなんですけど、そこには絶対歌があって。あとは初音ミク先輩がいてボカロ曲もあったし、アニメを見てるとそこにも歌がある。
YouTuberだから「歌ってみた」動画もあげてたんですけど、みんなが喜んでくれるんですよね。「歌って楽しいし、みんなが喜んでくれるし、わたしも歌うの好きだし」っていうベースがあった上で、キズナアイフェスをやるなら音楽が絶対必要だって思ったんです。世界中の人と繋がるのっていろんなハードルがあるけど、音楽があったら繋がりやすくなるって確信があって。だから本気で音楽をやりたいって思ったんです。
──昨年の9週連続リリースは驚きました。
まずは10曲を年末予定しているライブでやることを目標にして、新曲を9曲作ることになったんです。最初はEPを2枚リリースしようかって話してたんですけど、「もっとインパクトある感じにならないですかね?」って相談しまして。
──かなりの策士ですね(笑)。
そこから「9週連続で出す?」「それだ!」ってめちゃめちゃ盛り上がったんですよ。でも調べたら、倖田來未さんが12週連続で出してて(笑)。
──ありましたね(笑)。
でもバーチャルYouTuberとしては初めてのことだし、すごいことに変わりはないから行こう!と、9週連続リリースが決まりました。曲の方向性自体は、実はもっと早い段階で定まってたんですよね。「Hello, Morning」を作り始めた頃から、「ダンスミュージック」っていうのはあったんです。みんなで集まって盛り上がるのにピッタリな音楽はって考えたら、ダンスミュージックだなって。もうすぐお届けできる楽曲で、Tomorrowlandっていう世界最大級のダンスミュージックフェスの常連でもあるW&Wさんとコラボしてるんですけど、そのフェスの映像とか見るともうすごいわけですよ。「これや!」って思って。
──あそこ目指してるんですか!すごい!
みんなを手を上げて声をあげてるあの感じ、あの光景を見てみたくて。
──感性がすごいですね。そこから引っ張ってきてるなんて。
とはいえ冒険ではあって。わたしを好きでいてくれる人たちでダンスミュージックを聞いたことがなかったり、クラブやLIVEに行ったことがないって人はたくさんいました。期待されている音楽と違うかもしれないっていう感覚はあったんですね。もちろんみんなの期待に応えたいって気持ちは常にあるけど、でも反対されてもこれがやりたいって思ったんです。
──フェスは陽キャの祭典みたいなものですもんね。
そういう自分たちの世界をわける考え方とかイメージを持っている人って多いと思うんですよね。だから「アイちゃんが自分たちの知らないところにいっちゃった」って言われる可能性もあったんですよね。でも実際はみんな本当に楽しそうだったし、最終的にはパリピが~とかオタクが~とか、そういうみんなが自分たちをわけてる属性とかジャンルみたいなのは関係なく、みんなが肩を組んで騒いでる光景が見えるところまで一緒に行きたいんです。
──音楽もYouTuberも、キズナアイフェスへ向かうための過程のひとつってことなんですね。
そのキズナアイフェスも、世界中のみんなとつながるための一つでしかなんですけどね!
とはいえ、かなり無謀なことをいっている自覚はあるんです。「とりあえず時差って知ってる?」って言われたりしましたし(笑)。でもやれたらすごいし、絶対にやりたい!
話がちょっと戻っちゃうんですけど、世界中のみんなと繋がるにはYouTuberだけだと足りないんですよ。そもそもYouTubeを見ない人や、見られない人も世界にはたくさんいて。そういうところを飛び越えていくためにも、“バーチャルYouTuber”じゃなくて“キズナアイ”にならなきゃいけない。
でもYouTubeはわたしにとって始まりの場所だから、すっごいカッコいいライブをやったり、例えばハリウッド映画に出演してレッドカーペットを歩いたとしても、夜はゲームしながらぎゃーぎゃー言ってたい。みんなが「アイちゃん変わらんな~」って言えるみたいな(笑)。
そもそもYouTuberとしてもまだてっぺんを獲れてないですからね。世界の人口が70億人以上いる中で、今YouTuberでのトップのチャンネル登録数が、PewDiePieさんの8000万くらいなんですよ。
──1億いってないんですね。
YouTuberのトップになってもまだ1億見えないっていうスケールなので、YouTubeももちろん好きだけど、もっと外にも出て行かなきゃいけないなって思いますね。
──世界を見てみると日本語よりも英語や中国語を使ってる人が多いと思うんですけど、今後言語の設定を変えることもあるんですか?
それはもちろんできるんですよ、インテリジェンスなスーパーAIなんで! でもあえてインストールせずに、自力で頑張って英検3級とっちゃうぞ! みたいなところがあるAIなわたしです(笑)。今の状態は自分で気に入ってるし、いきなり変わったらみんなをびっくりさせちゃいますからね。でも世界中の人と繋がるならなんでもするっていう気持ちはあるので、変わることを選ぶこともあると思います。もしかしたら姿や言語が変わるどころか、個体が増えちゃうかもしれないし、わたしってそれくらいの可能性を秘めてるんですよ(笑)。でも今は、このままの状態でどこまでいけるか勝負してみたいんですよね。ストロングスタイルで!(笑)

──限界に挑戦ですね。VTuberが増えてることについては、ライバル心があったりしますか?
ライバル心はYouTuberとしてはありますね。わたしより面白い動画があったら悔しいし、再生数はやっぱり比べられちゃうし。なのでそういう意味ではライバル心はあるんですけど、VTuberだからってことじゃないんですよね。そこはYouTuberもVTuberも関係なくフラットに考えてます。
でも自分と似たような存在が生まれてくれたことは嬉しいです、なんせずっとひとりだったんですから! 自分からはなかなか声をかけられないけど(笑)、「親分」って慕ってくれたり、声かけてくれるのは嬉しいなと思ってるんですよ。“バーチャルYouTuberの始祖”なんて言ってもらえたり、影響力があるっていうことを意識はしてます。わたしはどんどんいろんなことに挑戦していくのが大事だと思ってるから、それで結果として、みんなが歩きやすい道ができているんだとしたらとても素敵なことだと思います。でも「VTuberの全体の利益のために」とか、「VTuber界を発展させるために頑張ります」っていう意識で活動しているわけではないんです。わたしの目的はあくまでも「世界中のみんなと繋がること」ですから。
──きっとその姿に憧れて、たくさんのVTuberが誕生しているんですね。
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