「かっこいいってどんな人なのか」を知りたくて、フローリストの河村敏栄さんが今日はあの人に会いに行く。その日の花を携えて。
その日の花。vol.2 スタイリスト・岡尾美代子さんへ

岡尾美代子さん/にょろにょろレオントキール
─── 何かに囚われてしまった人。 マティスやルイーズ・ブルジョワみたいに 生涯作品を作り続けたアーティストはかっこいい。 かっこいい人は周りにもいっぱいいて、 何がそう思わせるのかと考えると、自分がしたいことを考えて 真面目に生きてるのがかっこいいと思ったんですけど。
〈もっとも価値のある感情のひとつは、自分が心から尊敬し、多くを学べると確信する人を前にした時の感情だ〉とメイ・サートンは70歳の日記で書いている。私はまさにそんな気持ちをかみしめながら、彼女の自宅の枯れ果てているのに魅力のある、不思議な庭を見ていた。私がマティスやルイーズに嫉妬しないように、スタイリストが天職の彼女を羨ましいとは思わない。物を並べること、その行為自体が好きで、旅行で海に行けば、浜辺の石をずっと並べてると笑っていたけど、それは40歳を過ぎてもまだやるべきことがわからない私に、本当の成功を改めて考えさせた。彼女が最後に言った〝踏みとどまる〟という言葉は、ずっと覚えておきたい。慣れた仕事を前にした時こそ踏みとどまって考える。昔の自分が「もっと頑張れる」と教えてくれるらしい。彼女もまた囚われ、作り続けるアーティストだった。
今月の花
メイ・サートンの日記がある机の上で嬉しそうに踊っているのは、赤いボールのような花をつける蔓性の希少なレオントキール・オバレイ。赤い茎が印象的なカンガルーポーとオレンジ色のラケナリア。壁紙を剥がした壁にはグミの枝。彼女の部屋では秩序のなさも美しさになる。NYからやってきた紙製(!)のジギタリス様が喜んでくれていたらいいな。
花と文 河村敏栄 写真 松原博子
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岡尾美代子
スタイリスト。雑誌『オリーブ』で、特に雑貨のスタイリングで人気を集める。“もの”の表情を捉え、“もの”のある空間を独自の感性で切り取る。鎌倉で友人とともに営むデリカテッセン「LONG TRACK FOODS」は今年10周年を迎える。著書に『岡尾美代子の雑貨ヘイ! ヘイ! ヘイ!』(CCCメディアハウス)、『肌ざわりの良いもの』(産業編集センター)、『雑貨の友』(筑摩書房)など。
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河村敏栄
オーナーを務める東京・代々木上原の「MAG BY LOUISE」では、花のワークショップやレッスンをメインに、読書会などユニークなコンセプトの活動を行う。昨年、インディペンデント雑誌『FLOWER magazine』を創刊。www.louise-flower.com
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松原博子
京都府生まれ。雑誌、カタログなどで活動。sofiaという女性の写真を撮りためていて、今年じゅうに世に出したいと目論んでいる。www.hirokomatsubara.com
Edit: Akane Watanuki