世の中には、働くことに幸せを見出し、必要な稼ぎを得て毎日を生きている人たちがいる。一方で、自分の夢が見つからない。やりたいことがない。何のために働くのかわからない―。そんな疑問や迷いを胸に抱きつつ、毎日を過ごす人たちもいる。いったいこの差は何なのか? 働くって何なのか? 労働時間、適正な賃金、コンプライアンス…… 「働き方」が問われる今、職種も生き方も異なる6人の中に、その答えを探ってみることにした。
働くって何? 会社経営者 呉 京樹さんに聞く – 自分の意思で決めて試し 積み重ねた成功体験が大事
Revolution: 02
会社経営者
呉 京樹
ご・けいじゅ≫ 1976年、兵庫県出身。中学生の頃から20以上の職を経験し、2007年にクリエイターズマッチを設立、代表取締役に就任。全国のデザイナーの平均収入の底上げを目標にクラウドソーシング事業を展開。
自分の意思で決めて試し 積み重ねた成功体験が大事
「なぜ日本のデザイナーの平均年収は低いのか?」
欧米のデザイナーの平均年収が800万円。それに対し日本は300万円と約1/3。これを欧米並みにしようと立ち上がったのが、クリエイターズマッチ(以下、CM)代表の呉京樹さん(41)だ。なぜ会社をつくったのか。
呉さんはものづくりが好きで10代の頃から餅屋、レストラン、建築現場など20職以上を転々とし、どの職も極めてトップまで上り詰めてきた。仕事をいくつもかけもちし、1日23時間労働、月に100万円稼いだ。レストランで皿洗いをしていた時、包丁を握ったら「料理うまいやんけ」と認められ、料理を任された。とにかく器用で努力家。
そんな呉さんが「これは勝てない」と痛感したのがクリエイターとしてゲーム会社や映像会社に勤めていた時だった。
「世の中にはものづくりでは絶対に勝てない天才がいると知って、頭を打ちました」
だがもっとも衝撃だったのは、そんな能力の高い人たちの給料が安いという事実だった。優秀なクリエイターたちが「食えないから」と業界を去っていく現実を目の当たりにした。
「こんなエースストライカーを殺す世の中は何なんだ。彼らを超えるのが無理なら、自分は彼らに幸せになってもらう仕組みをつくろう」。呉さんは発想転換して2007年に会社を設立。日本初のクラウドソーシング事業を立ち上げた。
事業は、顧客から大量のデザイン案件を受け、全国の所属デザイナーたち(現在200名弱)に供給するというもの。デザイナーが仕事量を選べ、制作一本に集中できる環境を整えた。また、高いクォリティを提供し、ビジネスを円滑に進めるためにデザイナーの教育事業も始めた。過去9年間に約5000人の卒業生を輩出。うち8%が厳しい実技試験をパスし、CMでプロとして活躍している。今や在宅で500万円稼ぐ主婦や年収800万円稼ぐ人も珍しくない。着実に目標に近づいてきた。
呉さんは常に自分のゴールを設定し、1つのことをやりきるまで仕事を変えない。これは働き方を考える上で非常に重要なポイントだ。
クリエイターズマッチの入口。
たくさんの献本はあるが、あまり本は読まないという。「本って結果論だから。気になったら著者に直接会いにいって話した方が収穫は大きい」
呉さんのデスクは社長室ではなく他の社員と並んでいる。気さくな人柄が垣間見える。
「日本って『仕事』を選んでるというより『会社』を選んでますよね。でもそれじゃ面白くないんで、苦痛になってきますよ」と呉さんは言う。小学校の頃から集団行動。社会人になっても集団行動。周りに合わせてばかりで、自分のやりたいことが主張できない。だからストレスがたまって仕事が嫌になる。仕事を楽しくするコツは、自分のやりたいことを選ぶことだ。呉さんは、その時に鍵を握るのが、それまでに積み重ねてきた自分の〝成功体験〟だと言う。
「何でもいいんですよ。電車でおばあちゃんに席を譲って喜んでもらうのも立派な成功体験です」
自分の意思で決めて試した結果を積み重ねていくこと。それが働く上での大きな自信と方向性を与えてくれるのだ。
オリジナルでオーダーした革小物。一見、社長とは思えないロックなファッションセンス。
東京の本社オフィスで働くのはディレクター集団。
Photo: Takako Noel
Text: Sabu