イヴ・サンローランの片割れでありミューズであったベティ・カトルー。彼女がムッシュに影響を与えたスタイルは現在のクリエイティブディレクター、アンソニー・ヴァカレロにも引き継がれ、色褪せない魅力を放つ。気高く、知的で、自由な永遠のアイコン。
〈サンローラン〉永遠のミューズ ベティ・カトルーの軌跡
ライダースをドレス感覚で潔く素肌にまとう。レザーコート ¥924,000、レギンス ¥77,000、シューズ ¥170,500*参考価格(以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ|サンローラン クライアントサービス)/イヤリング*本人私物
メンズライクなコートは、ドロップドショルダーが丸みを帯びたラインを描く。1枚でミニマムに着こなす。レザーコート ¥847,000、レギンス ¥77,000(共にサンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ|サンローラン クライアントサービス)
左 コートの艶やかな光沢が、強さの中に秘められたセンシュアリティを呼び覚ます。コート ¥561,000、ストッキング*参考商品、シューズ ¥170,500*参考価格 右 ベティのマスキュリン・フェミニンなスタイルを象徴するタキシードジャケット。肩をしっかりマークしたフォルムに揺るがない自信が宿る。ジャケット ¥396,000、パンツ ¥148,500、シューズ ¥220,000(以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ|サンローラン クライアントサービス)/イヤリング*本人私物
カジュアルな印象の強いムートンも、黒一色なら、モダンな表情とともにエレガントへ昇華する。ムートンコート ¥1,100,000(サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ|サンローラン クライアントサービス)/イヤリング*本人私物
ベティのムードを体現するメンズウェア。シャツから覗く素肌で女性性を。ジャケット ¥462,000、シャツ ¥143,000、パンツ ¥77,000、シューズ*参考商品(以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ|サンローラン クライアントサービス)
11月19日より東京・天王洲 寺田倉庫で開催される『BETTY CATROUX -YVES SAINT LAURENT 唯一無二の女性展』。1970年代から現在に至るまでムッシュおよび現クリエイティブディレクター、アンソニー・ヴァカレロに大きな刺激を与え、〈サンローラン〉のスタイルを形作った不世出のファッションアイコン、ベティ・カトルーとは?
“出会いはイヴの一目惚れ。それ以来
私たちが離れることはありませんでした”
「僕の片割れであり、盟友」とイヴ・サンローランが語るベティ・カトルー。名家の出身、ルル・ド・ラ・ファレーズとともにムッシュといつも一緒だった、ブロンドの女性だ。サンローランとの出会いは、1967年、パリ・モンパルナス大通りにあるナイトクラブ「ニュージミーズ」。183cmでほっそりとした体躯の彼女は、圧倒的な存在感で、その場のみならず、若き彼の視線も独占していた。
57年に21歳でクリスチャン・ディオールの後継者となったサンローランは、瞬時にスターデザイナーとなり、時の人となったが、反面、内向的な性格だった。その彼が惹かれ、生涯にわたり離れなかったのがベティだ。
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1970年代のベティとサンローラン。ドレスアップの姿もマニッシュ。
「あれは一目惚れね。イヴが誘ってきたんです。いつも通りのすごく退屈そうな顔をして。シャイだったから、自分はテーブル席に座ったまま、男の子に私を呼びに来させたの。横に座った私に、いろんな褒め言葉をかけてくれた。すごくフレンドリーで可笑しくて、性悪でイカしてるって思った。確かに、私たちはよく似ていました。モデルをやってほしいと頼まれて、私は大声で笑い飛ばしたの。他の子たちにとっては夢のような話なのですが。それから彼に電話番号を聞かれて。それ以来、私たちが離れることはありませんでした」と回顧している(オリヴィエ・ラランヌ『VOGUE HOMMES』編集長のインタビューより)。
長身で細身の風貌もさることながら、ムッシュがベティに惹かれたのは、自由奔放さとミステリアスなムード、そして唯一無二の存在感だった。社交界の華として名を馳せたカルメン・セイントのもとで、4歳までブラジルで過ごし、パリに移り住んでからも母のボーイフレンドたちとホテル・リッツでランチをし、プレゼントを贈られる生活を送ってきたが、物心つく頃には、自分が完全に女性であるとも、男性であるとも感じることはなかったという。自分は自分、そしてアウトサイダーであると。
Betty Catroux, Place de l’Odéon, Paris 1980
パリの街を歩くベティ。昔からメンズ服を着ることが多かったという彼女らしいスタイル。
「私はアンドロジナス、アセクシャルでした。その影響は確かにあったけれど、私たちが似ているのは見た目だけではなく、道徳的、精神的にも似ていて、信じられないほどでした。そして、私がソウルメイト、同志になりうると感じたイヴにも驚きました」(『BETTY CATROUX -YVES SAINT LAURENT 唯一無二の女性展』より)
ベティもムッシュも心は子どものまま。気分屋で、向こう見ずで、羽目を外して遊ぶのが大好き。彼らの仲間であるアンヌ=マリー・ムニョス、パロマ・ピカソ、ミック・ジャガーたちと豪華絢爛なディナーを囲み、伝説のナイトクラブ「ル・セット」へ毎晩のように繰り出した。ドラッグのオーバードーズで強制的にリハビリ施設に入所させられた時も、悪友の2人はまた夜な夜な出かける算段をつけていたほどだ。ナイトシーンでひと際輝く彼女はまさに「サンローラン・ウーマン」そのもの。一方、アーヴィング・ペン、ヘルムート・ニュートン、ジャンルー・シーフなど、一流の写真家の被写体となり、サンローランの別荘があったマラケシュでバカンスを過ごし、ブティックがオープンする際はNY、東京、北京、LAにも駆けつけた。オンもオフも四六時中2人は一緒。ロンドンのブティック「リヴ・ゴーシュ」のオープニングでベティが着用したサファリジャケットと黒レザーのサイハイブーツは、当時のスタイルを決定づけるルックであり、いま見ても強烈なインパクトを残す。
©Jane Evelyn Atwood/Agence VU’
ショーの定位置はフロントロウ。NYのピエールホテルで開かれた1974年秋冬オートクチュールにて。
しかし、ベティと言えば、真っ先に思い浮かぶのは、タキシードジャケットだ。
「いつも男性的なものに心を奪われていました。ジーンズやメンズのジャケットをいつも着ていて。男性の格好をしている時の方が魅惑的に感じるのです」。そう語るベティにとって、サンローランがデザインするタキシードは、彼女のスタイルに完全に合致した。
「第二の皮膚を身にまとっているような感覚。サンローランのタキシードをまとうのは、とても輝かしいことです。ジャケットの下は何もつけない。シャツはなし、ジュエリーもなし、いつも同じように着ています」
©David Sims
今回の展覧会を監修した、〈サンローラン〉クリエイティブディレクターのアンソニー・ヴァカレロと。ベティは2018年秋冬のキャンペーンにモデルとして出演。デイビッド・シムズ撮影によるモノクロームの写真は、彼女が永遠のアイコンであり続けることを捉えている。「アンソニーは真のエレガンスと素晴らしい魅力の持ち主。メゾンの雰囲気、ミステリアスな感覚をうまく表現していると思う」。また、ベティに初めて会った時をヴァカレロはこう振り返る。「イメージ通りであると同時に、まったく違ってもいた。動き、考え、笑い、サンローランのスピリットを体現する女性。ベティはまさにサンローランそのもの」
©Guy Marineau
同じくミューズだったルル・ド・ラ・ファレーズ(左)と。
今号では、そんなベティ・カトルーのアティチュードを現代に表現したファッションストーリーを掲載しているが、アンソニー・ヴァカレロ監修による彼女の特別展が、11月19日より東京で開催される。実際に着ていたワードローブや、現在に至るまで〈サンローラン〉のスタイルに影響を与え続けるアイコンの作品を展示。「70’sという時代」「サファリ・ジャケット」「レザー」「デイ・ウェア」「イヴニング・ウェア」「タキシード」「アンソニー・ヴァカレロとベティ」の7つの部屋に分かれ、時系列にベティと〈サンローラン〉のスタイルを読み解く。
一般的な「女性らしさ」「男性らしさ」から解放され、自分に正直に、自身のスタイルを貫くベティ・カトルー。マスキュリンでありながらフェミニンという、〈サンローラン〉の原点であるスタイルとリンクする彼女の美学や哲学に触れることで、そのユニークさを実感できるはずだ。
©Steven Meisel
伊『VOGUE』でスティーブン・マイゼルが撮り下ろした1993年のベティは、素肌にタキシードという出立ち。
『BETTY CATROUX -YVES SAINT LAURENT 唯一無二の女性展』
アンソニー・ヴァカレロ監修
11月19日(土)〜12月11日(日)/寺田倉庫 B&C HALL/E HALL
東京都品川区東品川2-1-3
10:00〜19:00
無料*事前予約制
問い合わせ
サンローラン クライアント サービス
Tel: 0120-95-2746
Photo: Akinori Ito (aosora) Styling: Shinichi Miter (KiKi inc.) Hair: KENSHIN (EPO LABO) Make-up: Juri Yamanaka Models: Tsugumi, Yutong Text&Edit: Mika Koyanagi