ミュージシャンから直オファーが絶えない服部昌孝は、どんなことを考えてMVと向き合っているか。普段は語られない、あの曲の、あのシーンを解説。
スタイリスト服部昌孝のMV×ファッション考察 アイナ・ジ・エンド編
アイナ・ジ・エンド
「虹」
①チェックのセットアップ
②フリルの白ブラウス
③アーガイル柄のロングソックス
「首に蛇を巻きつけ、白塗りしたアイナ・ジ・エンドがどんな装いならよりギャップを生めるかを追求したのが、このルック。日本的文化からかけ離れた、正統派のブリティッシュスタイルに仕上げたのは、そのため。チェックのセットアップに、膝上まであるアーガイルソックスを合わせて、コテコテに。過剰なデザインのブラウスを差してランウェイ顔負けの“どモード”にすることで、異様な人物像をより一層際立たせています」(服部さん)
「スタイリングは大胆かつ繊細でした。キャッチーでモードなチェックのセットアップ。もう一体、光を反射するシックなヘビ柄のドレス、と攻めたファッションがバランスよく映像の中に流れ込み一体化できたと思います。ファッションと音楽映像というおぼろげな“ズレ”がある中で、気品を壊さず、双方の視点をMIXできる稀有な存在です」(監督 OSRINさん)
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アイナ・ジ・エンド
BiSHのメンバー。2021年2月に全曲作詞作曲を手がけたアルバム『THE END』をリリースし、ソロ活動を本格始動。ハスキーな歌声と、自ら振り付けを行う表現力で独自の世界観を築いている。
短所を隠すなんてもったいない
服部さんがMVのスタイリングで常に考えているのは、被写体の短所は消さずに、それもすべてさらけ出すこと。
「本人がコンプレックスに感じていることが、実はいちばんの武器になる。顔のホクロとか、大きいお尻とか、人それぞれ抱えている悩みはいろいろあるけど、そのほとんどがまわりとは違う自分だけの個性。それをウィークポイントと捉えるかどうかの違いなだけ」
武器となるものを客観的に伝えたうえで、お互いが納得できるスタイルを仕上げていくのが服部さんの進め方。
「ファッションアイコンをつくるのだってスタイリストの仕事です。どこかに提案があったり、今っぽかったり、真似したかったり、目に留まる要素をスタイリングに忍ばせることもしています。時には、業界でタブーとされることにも挑んできました。たとえば、メンズ服を女性に着せたのも、そう。今では、当たり前の文化として街にまで浸透していますが、それもアーティストを通じて、そこそこ時間をかけて発信し続けてきたこと。世の中に対して、新しい価値観をどうブーストさせるか。その答えが、今の時代はMVだと思い取り組んでいます」
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服部昌孝
2016年yahyelのMV「Alone」をきっかけに音楽シーンでもスタイリングを担当。制作会社「服部プロ」では作品の製作総指揮をとる。