スタイリスト谷崎彩さんが愛するファッションの話。
ジュリアン・デイヴィッドと永井博さんのアトリエへ– スタイリスト谷崎彩の超私的ファッション愛 #10

Who is ジュリアン・デイヴィッド?
ファッション・デザイナー、ジュリアン・デイヴィッドは情熱の人だ。(いつもリラックスした雰囲気で飄々とした佇まいなんだけど)
パリで生まれ育って、ニューヨークでファッションの勉強をして仕事に就いて、26歳の時にやってきた日本で“ ここで物作りをする!”と決めてから、親類もいないし、言葉もわからない国で、商工会議所がくれたリストを頼りに片っ端から工房に電話をかけて、理想とするシルクスカーフを作りあげ、早10年。シルクスカーフ作りの詳細は長くなるのでこちらを見てね。
その間にフランスの権威あるデザイナー賞ANDAMでグランプリを受賞し、パリで数シーズンに渡りショーを行かったと思えば、今は自ら撮影もするシーズンイメージでニューコレクションを発表し(私は毎回それがとても好き)、神宮前のお店をクローズした後は突然京都に出店したり…。
「仕事にはパッションがなくっちゃ!」といつも自分の好奇心に忠実に従い、変化を怖れず、常に何か違うアプローチを求め、少数精鋭のアトリエスタッフと共に動き回っている(そして会社を大きくしていくことが自由なクリエーションを行うための唯一の方法ではないことも知っている)。
もともとストリートとモードのハイブリッド感が絶妙なので彼の服が大好きなんだけど、何というか、ナショナリズムに囚われない、自由な逞しいノマド的な感性を持った人が、異なるカルチャーの国にやってきて服作りしてるというのは、2020年にオリンピックを控えて、海外から来日する人々も増えて、なんとなく世界の中のニッポンを意識するようになってくると嬉しいことであり、逆に私たちのこれからの働き方のヒントにもなるなぁと考えてしまいます。「肩の力が抜けた働き者‼︎」こういう風になっていきたい。
ジュリアンと永井博さんのアトリエへ
さて、そんな彼が日本人なら誰でも一度は目にしたことことのある“私たちの憧れサマーバケーション”を描くイラストレーターの永井博さんとコラボレーションしてシルクスカーフを作ったと聞けば、私なんかは興奮せずにはいられません!ジュリアンの案内で厚かましくも永井さんのアトリエにお邪魔してきました。
¥25,000(税抜き) 90×90cm 50枚限定(EDSTRÖM OFFICE |エドストローム オフィス) 03-6427-5901
4つの違う工房の手作業を経て作られるスカーフ。※50枚は既に完売。現在、別企画の生産準備中。(スカーフも違う柄ででます!)
スカーフの巻き方アレンジ色々
ジュリアン(以下、JD): 日本に住むようになって偶然、何かの表紙で永井さんの絵を見て、うわぁーっ!自分の好きな三大要素がこの絵の中には全部ある!って。パリ育ちだから、椰子の木なんて見たこともないくせに子どもの頃から椰子の木を描くのが大好きで、椰子の木=リゾート って子ども心にもイメージがあったんだと思う。それとも前世かな?(笑)
カラッと晴れた太陽の下、どこまでも青い水平線が続くビーチ。でも、こんなタッチの絵は日本以外では見たことがなかった。明らかに日本の海の景色ではないのに、日本にしかない絵!すごく好きになって、それからいつか何か永井さんと一緒に物作りがしたい!と必死で連絡先を探して…去年メールしたんだ。
永井博(以下、NH): 誕生日だからと絵を買いにきてくれたんだよね。英語のメールだとつい億劫になって返事が先のばしになっちゃうんだけど、ジュリアンの奥さんが日本語でメール送ってくれたらからすぐに返事ができた。“喜んで!一緒に何かやりましょう”って。最近は僕の絵を海外から買いに来てくれる人が多くて、韓国では本の表紙やCDジャケットを依頼されたり…。
JD: 僕の海外の友人たちも、永井さんの絵に夢中になってるよ!コンピュータグラフィックではなく、手描きでこの精密な絵が描かれてるんだからすごいと思う。グラフィックではなくペイント(絵画)、紛れもないファインアートだ!それで僕のシルクスカーフも日本の職人さんたちが全て手作業で作ってくれるもの。アーバンな雰囲気なのにどちらもオールハンドメイドってところがなんか良いでしょう?何度も何度もアトリエにおじゃまして、大量の絵を見せてもらって、90×90のサイズの中で気持ちよく収まる1枚を探しだしたんだ。ずーっと好きな絵に触れられて本当に楽しい幸せな時間だった。ところで、永井さんは影響を受けたアーティストや絵を描く上で意識してることってあるんですか?
NH: そうだねー。絵よりも写真を良く見てたかなぁ。ブルース・ウェーバーやヘルムート・ニュートンは大好きだったし、ローゼンクイストやアンディ・ウォーホル、とにかくアメリカンポップアートが好き。ここにある雑誌『DABU-DABO』は70年代に僕の師匠の湯村輝彦さんがADをやっていた雑誌なんだけど、この巻頭でアメリカ人たちのポートレートを元にイラストを描くという作業もしたことがあるんだ。うーん、そうだなぁ、何を一番意識しているかといえば、自然な日差しの下にできる影かな。スタジオ照明の光と影ではなく、夏の太陽の強い日差しと海からの照り返し、そういう自然に作り出される光のコントラストに強くこだわってるなぁ。
JD: ああ、 なんかすごくよく分かる!感じてた何かがすごくしっくりきた!ところで、あの有名なロングバケーションの絵のオリジナルってあるんですか?
NH: 実はないんだけど、その後、展覧会とかやる時にないと困るって言われるもんだから、自分で自分の作品をトレースして3枚は描いてるんだよ。そもそも、あの絵は関西のワインメーカーの広告のために描いたもので、その後、ヴィジュアル本『A LONG VACATION』(文: 大滝詠一、絵: 永井博 1979年CBSソニー出版)になって、それから1981年に大滝さんのアルバムのジャケットにも採用されたんだよ。外側の部分の椰子の木のイラストは湯村さんが描いてくれたんだ。で、4枚目を描こうとした時に東MAXがやってきて”今度、小滝詠一という名で『冷麺で恋をして』(大滝詠一さんの別バンド、ナイアガラトライアングルのヒット曲『A面で恋をして』のパロディー)という曲を出すからジャケットを描いてもらえませんか?” って頼まれたから、その4枚目のロングバケーションの絵の中央に冷麺の絵を描いたの。
なんと!こんなグッズまで!
JD: えー!貴重な4枚目がそんなことに!!永井さん、カッコ良すぎる。洒落が効いてる!でも、ちょっともったいない気も…。
NH: ね(笑) !長くやってると色んなことあるよね。でも、とにかく今でも描くことと、音楽は楽しくって仕方ないよ!
──永井さんの事務所からの帰り道、ちょうど椰子の木が植わっていたので2人で撮影ごっこをして遊んでいると、ジュリアンが熱い思いを打ち明けてくれました。
JD: ああ、僕は永井さんが大好きで、会うたびにとても暖かい気持ちになって元気がでるんだ!出会えてよかった。さぁ、また仕事頑張ろう!!
──今年も暑い夏がやってきますね。
『CONTRAST』
Hiroshi Nagai
(500部限定)
代官山 蔦屋書店限定 500部販売
吹き抜ける風、きらめくプール、白いパラソル。
いつの時代も色褪せないあのころの風景。
イラストレーター永井博の初期の作品から最新作をまとめた作品集。
【永井博 展示情報】
【常設展】
住所: 東京都渋谷区恵比寿西1-16-1
場所: FMCD Gallery Studio
Tel: 050-5532-7470
【Hiroshi Nagai Exhibition CONTRAST】
開催期間: 2019年7月11日(木)~2019年9月1日(日)
時間: 7:00~深夜2:00(営業時間)
場所: 蔦屋書店2号館 1階 ギャラリースペース
住所: 東京都渋谷区猿楽町16-15
Tel: 03-3770-2525
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谷崎彩
スタイリスト。1998年から代官山の隅っこで小さな輸入洋品店を開業。2000年〜2004年くらいまでフランスのインディペンデントマガジン「Purple fashion 」のスタイリスト兼ファッションエディターを務める。
Edit: Karin Ohira