新作映画『ダンサー そして私たちは踊った』の舞台は、東欧の国ジョージアの国立民族舞踊団。男性は雄々しく、女性は優美に踊ることを求められる、そんなジェンダーがはっきりした環境で、主人公のダンサーの青年メラブは、カリスマ的な魅力を放つ新入りダンサーの青年に惹かれていきます。メラブを演じたレヴァン・ゲルバヒアニさん自身ももともとダンサーで、今作でスクリーンデビューを飾りました。弱冠22歳の彼は、聞けば、フェミニストでヴィーガン。新世代らしい、“当たり前”に縛られない自由な考えを教えてくれました。
フェミニストでヴィーガン。東欧のダンス王子レヴァン・ゲルバヒアニ、22歳の素顔

差別を生み出すのは”社会”
──今作は東欧ジョージアの国立民族舞踊団を舞台に、男性ダンサー同士の恋愛を描いています。今作は本国で大きい反響を呼び、プレミア上映のチケット5,000枚は 13 分で完売するも、当日劇場前では、保守系のグループにより上映中止を求めて大規模な抗議デモが起きたそうですね。今作にそんなシリアスな社会背景があったというのも、資料を読んではじめて知りました。
レヴァン・ゲルバヒアニ(以下、レヴァン) そうですね。だから、監督は僕のことをインスタグラムで発見して主役をオファーしてくれたんですが、今作の題材と社会背景がナーバスなこともあり、5回くらい断ったんです。出演の影響は自分だけではなく周囲にも及ぶかもしれないし、それを受け入れる準備が自分にあるかわからなくて。でも友だちや家族に相談する中で、最終的には母が僕の背中を押してくれました。
ⓒFrench Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film 2019 all rights reserved.
──出演はとても勇気がいることだったんですね。今作を観ていると同性愛のみならず、ジェンダーそのものについて考えさせられます。たとえば男子更衣室で、先輩ダンサーが新入りを風俗店に誘うシーンがありました。その手の男性同士の親睦の深め方は日本社会にもあるようです。でもそんな風に、古臭い“女らしさ”“男らしさ”を押し付けてくる社会に対して「NO」と言う人が、若い世代を中心に出はじめています。レヴァンさんが演じた主人公メラブもクライマックスのダンスシーンで、華麗に「NO」を体現していましたね。
ⓒFrench Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film 2019 all rights reserved.
レヴァン 僕自身も前提として、人間は平等であるべきだと思っています。ジェンダーによって誰かが優れている/劣っていることはありえないのに、じゃあ何が差別を生むのか?というと、“社会”です。社会が僕たちの脳に、ジェンダーを差別する考え方を刷り込んでいるわけですが、本当にばかげていると思います。「わたしは男性だから家事はしない。女性がするべきだ」と言って、まるで女性を奴隷のように扱う。そんな男性中心の発想は、自分の中では違うと思いますね。保守的なジョージアのみならず、各国で女性の社会的地位はまだまだ不当に低いと思うので、もっと上げたいです。
──たしかに先進国においてでさえ、男女間の格差は今も根強くあるとされています。
レヴァン 女性には本来すごく、すごくパワーがあると思います。ジョージアでは12〜13世紀にかけて、タマールという女王が国を治めていました。国の基礎を築いて大きくしたとして知られる人物で、彼女はジョージア史上最高のリーダーなんじゃないかと思います。また今、ジョージア国内には出稼ぎ労働者が200万人ほどいるのですが、そのほとんどが女性です。自国の夫は仕事もろくにせず、妻の稼ぎをアテにしているケースが多いそうです。つまり女性が国々の経済を回しているわけで、その功績は認められて当然だと思います。
──ジェンダーに縛られない、進歩的な考え方をお持ちなんですね。その考え方には、今作に出演したことも影響していますか?
レヴァン 進歩的ですか?ありがとうございます(笑)。昔からわりとそういう考えでしたが、もちろん今作の撮影現場で学んだこともたくさんあります。「これだ」っていう風には答えられないけれど、気づけば撮影前とは違う自分になっていたというか…。何か小さい変化が、今の僕を助けてくれているように思いますね。
ヴィーガンになったわけ
──今作を観ていて、見事なダンスシーンに魅了されたのはもちろん、食事シーンの数々も印象に残りました。特にナスやザクロやハーブなどの野菜・果物がカラフルで見応えがあります。ジョージア料理は日本ではまだ馴染みが薄いですが、もしおすすめの料理があれば教えてください。
レヴァン 僕が好きなジョージア料理は「アチャルリ・ハチャプリ」です。パンとチーズを使った料理で、ちょっとピザみたいな感じ。あと、焼きナスでクルミのソースを巻き、ザクロを散らした「バクラジャーン・アレーハミ」もおいしいですね。ちなみに、映画の中に野菜や果物がよく登場しているのは、監督がヴィーガンを実践しているからかもしれません。
──ジョージア料理、食べてみたくなりました。監督がヴィーガンだとおっしゃいましたが、レヴァンさんもそうなのですよね?取材直前に、ランチを何にするかお話しされていたとき小耳にはさみました(笑)。ヴィーガンになったのは、ひょっとするとダンサーとして、体調や体型を気にしてのこと?
レヴァン いえ、ダンサーということはまったく関係なくて。「人間同士、お互いを食べない」というのと同じロジックです。僕にとって動物はみんな友だちで、犬や猫を食べないのに、牛や豚や鶏は食べるという区別はおかしいと思っていて。『Earthlings(日本未公開)』というアメリカのドキュメンタリー映画を観たのも大きかったです。その映画で知った、家畜の飼育環境や屠殺方法があまりにひどくて…。
──(スマホで映画『Earthlings』のことを調べると)俳優のホアキン・フェニックスがナレーションを務めているんですね。そういえば彼も3歳から厳格なヴィーガンだと以前インタビューで読みました。レヴァンさんはいつから?
レヴァン 2017年からです。でも今作撮影中の数か月間は肉を食べ、撮影終了後のクリスマスにも食べ、と断続的です。というのもジョージアではクリスマスや新年などお祝いの場で出るのは肉料理中心で、そのときは酔っ払っていたし食べました。正直ジョージアで、ヴィーガンでい続けるのはかなり難しい。西欧やアメリカではヴィーガンのお店や食材が豊富だと思いますが、ジョージアでは限られているし、すごく値も張るから。でもやっぱり基本的には肉を食べたくないので、なんとか続けていきたいですね。
ロールモデルはグザヴィエ・ドラン
──レヴァンさんはもともとダンサーで、今作がスクリーンデビューとなりましたけれど、今後もダンサーと俳優を両立されるんですよね。ダンサーとして/俳優として、それぞれロールモデルにしている方はいますか?
レヴァン 瀬山亜津咲さんはすごくいいダンサーだと思います。20世紀を代表するコンテンポラリーダンスの舞踊家、ピナ・バウシュが立ち上げたダンスカンパニー、ヴッパタール舞踊団のダンサーで日本人女性の方です。
──ヴィム・ヴェンダース監督の3D映画『ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』にも出演していた方ですね。
レヴァン あと前はウクライナ出身のバレエダンサー、セルゲイ・ポルーニンも好きだったんですけど…、ロシアのプーチン大統領を全面支持する発言をしたり、彼の肖像画のタトゥーを胸に入れたり、言動に疑問を感じてからはまったく好きじゃなくなりました。
──彼は日本でも、2017年にドキュメンタリー映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』が上映されて話題になりましたが、今そんな風になっていたとは。では、俳優としてのロールモデルは?
レヴァン 『ボヘミアン・ラプソディ』主演のラミ・マレック、それにジェームズ・マカヴォイもいいですね。彼は『スプリット』という映画で、23つの人格が同居する多重人格者を演じ分けていてすばらしかったです。あと俳優という枠は超えているけど、グザヴィエ・ドラン。『わたしはロランス』をはじめ全部の監督作が好きで、作品のテイストやイメージの作り方に共感します。うん、彼はまさしく僕のロールモデル!
──最後にお聞きしたいのですが、日本のアニメがお好きだそうですね。普段どんな作品を観ているんですか?
レヴァン 『NARUTO』、『DEATH NOTE』、『ONE PIECE』、『ユーリ!!! on ICE』、『ワンパンマン』、長編アニメならジブリ作品…、いろいろ好きです!!
──レヴァンさんはまだ20代前半なのに自己を確立していらして、今日はお話を聞きながら感心しきりだったので、アニメ好きという年相応な面も見られてちょっと安心しました(笑)。ありがとうございました!
『ダンサー そして私たちは踊った』
監督:レヴァン・アキン
出演:レヴァン・ゲルバヒアニ、バチ・ヴァリシュヴィリ、アナ・ジャヴァヒシュヴィリ
配給:ファインフィルムズ
2月21日(金)より、シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか公開
ⓒFrench Quarter Film / Takes Film / Ama Productions / RMV Film / Inland Film 2019 all rights reserved.
www.finefilms.co.jp/dance
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レヴァン・ゲルバヒアニ
1997年生まれ。祖国ジョージアでコンテンポラリーダンサーとして活躍。現在はダンスと演技、両方のキャリアを並行して築き上げている。『ダンサー そして私たちは踊った』では映画デビュー作ながら、ダンサーの主人公メラブを瑞々しく好演し、世界中で高い評価を得た。アメリカのファッション誌『W Magazine』の「カンヌ国際映画祭2019で最も刺激的なスター」の一人にアントニオ・バンデラスやウィレム・デフォーらと並んで選ばれる。2019年のスウェーデン・アカデミー賞で主演男優賞を受賞。
@levangelbakhianii
Photo: Yuka Uesawa Edit,Text: Milli Kawaguchi