映画や舞台、音楽のフィールドで活躍する女性6人の、どうしても手放せないものとは?大切なモノと「私」をつなぐストーリーを聞きました。
女優・趣里の「捨てられない物語」。生きる道を変えた彼女を支えたバレエシューズ

趣里 > バレエシューズ
クラシックバレエからお芝居へ
生きる道が変わった私を支えたもの
くたくたになった小さなピンクのバレエシューズは、女優の趣里さんが2016年の舞台『アルカディア』の稽古で、1カ月ほど使ったもの。
「裸足でワルツを踊るシーンがあったのですが、スタッフの方が〝足を痛めないように稽古の時はこれを使って〟と渡してくださったんです」
幼少時からバレリーナになることを目指して邁進してきたものの、突然のケガで断念。実は役者に転身したのを機に、私物のバレエアイテムはすべて捨ててしまっていたという。
「やめると決めたのは自分。でも当時はその事実を受けとめられなかった。過去を忘れなくちゃいけないのに未練たらたら。バレエの話も避けていたし公演を観ることもできませんでした」
そんな気持ちが少しずつ癒えてきたころに出合ったのが、前述の舞台『アルカディア』。
「憧れのカンパニーからのお誘いで本当に幸せだったし、私はこれから芝居で生きていくんだと信じられる素敵な役をいただけた。もう一度頑張って新しい道へ進もうっていう気持ちが固まったんです。何より、それまで遠ざけていたシューズをすっと抵抗なく使えたことがうれしかった。心の整理がついたんだと思います。公演が終わった後もクローゼットにしまって大切にとってあるのですけれど、捨てずに持ち続けているということは、自分自身が過去にひと区切りつけて次のステップに昇華できた証なんですよね」
体の動きや身のこなしなど、かつて得た経験を芝居に生かしたいと本気で思うようにもなった。
「バレエをやっていてよかったって、やっと言えるし、そう言える自分を好きでいられる。このシューズを見ると、バレエ時代とお芝居時代が私の中でちゃんとつながったことを感じます」
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趣里
女優。バレリーナを目指した後、役者に転身。ドラマ『とと姉ちゃん』、舞台『ジュリエット通り』で注目される。
©中村和孝(まきうらオフィス)