サンリオ、キモカワ、ゆるかわ、そして海を越えたkawaiiブームと、いろんな変遷を経た今、私たちの「かわいい」はどこにある?さまざまな分野の識者たちに聞きました。
石黒浩さんに聞く「かわいい」概念の現在地。【アンドロイド編】
お話を聞いた人
石黒 浩さん(アンドロイド研究)
「かわいい」の対象が生身の体ではなくなる未来がくる!?
人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者である石黒浩先生。人に優しく、不快感を与えず、親近感が湧くアンドロイドとは、きっとかわいがられる資質を持っているはず。そこで「ロボット学とは人間を深く知るための学問である」と明言する石黒先生に、アンドロイド制作の際の「かわいい」への視点を尋ねてみた。
「たとえば受付などで来客応対ができるよう開発された『erika』は、いわゆる美人顔であるように制作されました。老若男女、誰にでも受け入れられる容姿を目指して、いろんな人の顔やパーツの計測データを集めて中間値をとります。この作業をどんどん突き詰めていくと左右対象の特徴のない顔になっていきますが、多くの人が賛同する美人顔になっていく。
アンドロイド「erika」 意図や欲求を持つかのように実装された自立型ロボット。対話に適した人間らしい見た目が特徴。頭部、両腕、腰に44個の自由度をもち、さまざまな表情を作り、自然にふるまえる。
『かわいい』という感情を理屈なく起こさせるのはやはり子どもでしょう。子ども型のアンドロイドを作るとき、幼くて丸っこい、柔らかい、目がくりっとしていて大きいという特徴を取り入れます。ほとんどの人が逆らえない、無条件で受け入れるのが幼児ですから、子ども型のアンドロイドは大人のアンドロイドに比べて、より強く情感に訴えて、生々しく迫ってきます。幼い子の造形を見ると、かわいいとか守ってやりたいという気持ちが瞬時に出る。これは人間の本能なのでしょう」
この先、どんな「かわいい」が求められるのだろう?
「これまでは顔の造形や皮膚感をできるだけ人間に酷似するよう作ってきましたが、今後は機械むき出しのアンドロイドを作ろうかと思っています。それは『人間は生身の体で定義されるものではない』という仮説を立証したいからです。人間のような顔や体を持っていなくても、会話ができて心が通い合うのであれば、それを受け入れる時代になる、いや、もうなってきていると思います。義手や義足を自らの個性としてモデルなどで活躍する人はたくさんいます。この先も『かわいい』の概念は変わっていくと思いますよ」
子ども型アンドロイド 「ibuki」 身長120cm、下半身に車輪がついており、移動が可能。車輪移動ながら、肩を上下させて揺れるのが、人間らしい歩き方に感じられる。自律的に情報収拾をして徐々に賢くなっていく。
©JST ERATO石黒共生ヒューマンロボット/インタラクションプロジェクト
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石黒 浩
アンドロイド研究。1963年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科教授、ATR石黒浩特別研究所客員所長。遠隔操作ロボットや知能ロボットの研究開発に従事。近著に『ロボットと人間 人とは何か』(岩波新書)など。