東京国立博物館の敷地内に立つ、古来の文化財の保存と展示を行う建物。 日本建築の伝統的な要素を巧みに取り入れた、ジャパニーズモダンの最高峰です。
なぜジャパニーズモダンの最高峰?「東京国立博物館 法隆寺宝物館」
東京ケンチク物語 vol.55
東京国立博物館 法隆寺宝物館
TOKYO NATIONAL MUSEUM THE GALLERY OF HORYUJI TREASURES
数々のファッションブランドがイベントやショーの会場として使用してきた場所。そう聞くと気になるな……って人も多いのでは? 上野公園にある「東京国立博物館」の敷地内、見事な枝ぶりのイチョウの古木が印象的な木立を抜けた先に立つのが「法隆寺宝物館」だ。きりりとした水面の向こうに見えるのは、ちょうど「門」の字の形をした大きな庇。細い柱がこれを支え、その向こうには縦格子とガラス面が見えている。静かで、たおやかで、そこはかとなく美しい……。吸い寄せられるように近づきたくなるこの建築は、谷口吉生の設計で1999年完成。谷口は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)などを手がけたことでもよく知られる、現代日本最高峰の建築家のひとりだ。
「法隆寺宝物館」は、1878年に法隆寺から皇室へ献納され、さらに第二次世界大戦後に国に移管された、約300件の宝物を収蔵かつ展示する場所だ。聖徳太子ゆかりの法隆寺の宝物は、同じく奈良・正倉院の宝物と双璧をなす、非常に貴重な古代美術のコレクション。7世紀の文化財を数多く含む仏像や書物、金属工芸品、染織品など、歴史的にも文化的にも価値の高い品々を大切に保管しつつ、人の目にも触れさせるという、矛盾のある難題に、谷口は見事な構成で答えている。展示室と収蔵庫を収めるのは鉄筋コンクリートの堅牢な箱。その周囲をガラスで覆って、建物の前面側にアルミの縦格子を組み込む。さらにその手前側に大庇。これが建物のつくりだ。シンプルなこの構成によって、ガラスの箱とコンクリートの箱の間に、格子越しに水面を望む大きな“縁側”のような場所が生まれている。来場者は、都会の喧騒を抜け、水面を突っ切って建物に至り、この“縁側”でひと呼吸。日常がすーっと遠ざかり、この上なく落ち着いた気持ちが訪れる。そうしてコンクリートの箱の中へと進むと、光量を絞った空間の中で保存される展示品に出合えるという流れとなっている。暗がりの中で古代の美に目を凝らすうち、五感がどんどん研ぎ澄まされていくのがわかる。訪れる人々の心を動から静へと切り替え、希少な経験を見事に演出する建築だ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto