東京タワーのふもとから神谷町へ抜ける道すがらに突如現れる、巨大な屋根を載せた姿。築約50年を経ても色褪せない威容の理由を探して、この建築を訪ねます。
一度見たら忘れられない存在感「霊友会釈迦殿」
東京ケンチク物語 vol.46
霊友会釈迦殿
REIYUKAI SHAKADEN

東京タワーのすぐ足元にある飯倉交差点の辺りは、大使館やテレビ局、超高層ビルや隠れ家レストランなどが点在して、今も大人の街の風格を帯びたエリア。ちょっと背筋を伸ばして歩きたくなるこの交差点からすぐ、国道1号線からふと脇へ目をやると「霊友会釈迦殿」は現れる。間口をほぼいっぱいに占める、見たこともない大スケールの破風(屋根の端っこ)部分がついた屋根を戴いた、威風堂々たる建物。入り口側に向かってぐいっとせり出してくる大屋根の中央部に向かって、踊り場のある幅広の階段が伸びていく。周辺に建つ現代的なビル群との対比も相まって、一度見たら忘れられない存在感を放つこの建築は1975年の完成。法華系の新宗教・霊友会の活動拠点として、“合掌”をコンセプトに、竹中工務店が設計・施工を手がけた。建物は地上3階、地下6階の9層構成で、中央の階段を上った先にある分厚い大屋根の中は、幅50m×奥行き100mの柱のない大ホールだ。ずらりと並ぶ椅子の座面の深紅に床面の大理石、壁面に貼られた瑪瑙の大胆な縞模様、雲海をイメージした円形の模様をプレスした天井のステンレスパネルの鈍いゴールド……。上質な素材そのものの美が彩りとなった、身を置くだけで厳かな気持ちになる空間だ。さらに、この大ホール部分が敷地に浮かび上がるようなつくりになっているのも、建築の見どころのひとつ。ホールと屋根を合わせた巨大なボリュームを、28本のV字型をした鉄骨の柱で支えることで周囲を開放し、通りからつながる道が回廊のようにぐるりと敷地を巡る。訪れる人々が自由に行き交う“参道”のような役割の場所が生まれているのだ。破風の見える前面道路からのインパクトも強烈だが、こちらを訪れたらぜひ、周辺を散策して屋根を別角度からも見てみてほしい。大屋根は、敷地全体を覆う四角錐のような形をしているのだが、建物の機能から連想する瓦屋根ではなくステンレスのパネルを葺いている。瓦より薄く平滑なステンレスの連なりが、屋根面や破風部分の切れ味のいい美しさにつながっているというわけだ。素材美と高い技術を紡ぎ合わせてできあがった、街のランドマークだ。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto