名建築が集う上野公園のなかでも抜群の存在感を持つ音楽ホール。日本のモダニズムを率いた名匠の腕前に感じ入る、築60年を超えてもまったく古びることのない傑作です。
前川國男が設計を手がけた、日本初の本格的音楽ホール「東京文化会館」
東京ケンチク物語 vol.47
東京文化会館
TOKYO BUNKA KAIKAN
JR上野駅公園口の改札を出てすぐ目の前。上野公園を訪れる大勢の人々を出迎えるようにして「東京文化会館」は現れる。分厚いコンクリートの板が反り上がるような形の大きな庇、それをしっかりと支えるコンクリートの柱。1階部分はガラス貼りで、その向こうの内部まで、何本もの柱が続いていくのが見えている。公園の木々が建物の中までつながるようで、すいと吸い込まれてしまいそうな魅力的なこの建物は、1961年の完成。オペラやバレエの公演も開ける、日本で初めての本格的音楽ホールとして東京都が計画し、20世紀にかけて日本各地に数々の名作建築をつくったモダニズムの旗手・前川國男が設計を手がけた。前川にとってこの敷地は特別な場所。公園内の真向かいに、ル・コルビュジエによる「国立西洋美術館」が建っているからだ。若い頃にコルビュジエの下で研鑽を積んだ前川は、生涯の師に敬意を払うように建物の高さを美術館に合わせていて、これが公園入り口の景観にそこはかとない統一感を生み出している。
約2300席の大ホールと、約650席の小ホール、音楽資料室やレストラン……と、多くの機能を詰め込んだ建物ながら、ロビーや待合などのパブリックスペースがかなりゆったりとしたつくりなのは、前川のさすがの手腕だ。電車の音の影響を考えて、大小のホールは分厚い壁で囲んで線路から離れた場所に配置。楽屋は地下に埋め、資料室や会議室をコンクリートの柱が持ち上げる屋根の上に載せる。平面はもちろん、断面的にも巧みな構成によって、公園の景色を臨む“いい場所”をロビーや待合にしているのだ。気持ちを高揚させるこの序章を経て入るホールもまた見事!特にサーモンピンクの入り口を抜けた先にある大ホールは、ステージ両脇に音響効果を兼ねる雲形の木彫パーツが貼られ、赤・青・緑・黄色のシートが点在していて一気に盛り上がる。外部の庇の形を繰り返すような、反り返るコンクリート板状の上階席も大空間のアクセントとなっている。文化を浴びにホールを訪れることの楽しさと幸せを、この建築はいつも教えてくれる。
Illustration_Hattaro Shinano Text_Sawako Akune Edit_Kazumi Yamamoto