実力派の脚本家たちにより優れた作品が次々と生み出されている、 近年の日本ドラマ界。書き手の名で番組を選ぶという人も少なくない。今回はなみいる名手の中から、オリジナル脚本を得意とする人物をピックアップ。テレビドラマに造詣が深い岡室美奈子さんに、 各作家の見どころとおすすめの作品について語ってもらいました。
『木更津キャッツアイ』のご臨終シーンetc.クドカンドラマは常識を覆す。脚本家・宮藤官九郎の心に残るドラマ
宮藤官九郎
ここがスゴい!
☐街にあふれる言葉を
ドラマに持ち込む
☐虚構を通して
“普通”の尊さを見出す
☐勝ち負けのような
二元論を超える
『木更津キャッツアイ』の「9回表・裏」「10回延長」から。死に際の ぶっさんを仲間が囲みくだらない話をし「お前ら全員むかつく!」とボヤく。
「ほら、あばずれの食いもんだよ。昔のドラマや映画の不良はさ、みんなナポリタン食べるんだよねぇ。粉チーズかけてさ」天野春子
───────『あまちゃん』83話より
宮藤官九郎作品の面白さはとてもたくさんあるんですが、そのひとつに言葉選びがあります。『木更津キャッツアイ』の5人のツッコミを多用したダラダラとした会話が特徴的。特に最終回が素晴らしい。主人公のぶっさん(岡田准一)が危篤になり、みんなが集まりベッドを囲む。本来であれば泣かせる場面ですが、ご臨終のシーンでもクドカンは笑わせてくれます。みんなの別れの言葉に、死に際のぶっさんがいちいちツッコむ。それは、お涙頂戴ドラマの在り方にもツッコミを入れ、私たちの既成概念を覆しました。そして、一度死んだぶっさんが生き返ることで、勝ち負けの二元論を超えていきます。『あまちゃん』でも新たな価値観を提示します。主人公の天野アキ(能年玲奈)は、東京で芸能界の頂点(プロ)を目指すのではなく、地元で生きる(アマ)選択をする。クドカンドラマで一貫して描かれているのは〝普通〟の素晴らしさ。フィクションの世界を通して、普通でダラダラとした日常がいかに得難いものなのかが発見されていくのです。
『木更津キャッツアイ』(02)
余命半年を宣告された20歳無職のぶっさん(岡田准一)と、高校野球部の同級生バンビ(櫻井翔)、うっちー (岡田義徳)、マスター (佐藤隆太)、アニ(塚本高史)の5人は昼間は野球チーム「木更津キャッツ」、夜は怪盗団「木更津キャッツアイ」として活動する。毎話表と裏の構成で、パラレルな時間を描く。*DVD発売中
『あまちゃん』(13)
引っ込み思案だった高校生のアキ(能年玲奈)が、北三陸に移住する。祖母の影響で海女になるが、母・春子(小泉今日子)の果たせなかった夢を追いかけ東京でアイドルを目指す。震災後は北三陸に戻り、復興のため地元アイドルとして活躍する。ポスト震災ドラマとして注目を集めた。*NHKオンデマンドなどで視聴可
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宮藤官九郎
1970年宮城県生まれ。『演歌なアイツは夜ごと不条理な夢を見る』(92)でデビュー。『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(19)放送中。
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Navigator:岡室美奈子
早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系教授。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長。専門は現代演劇やテレビドラマなど。演劇博物館で『大テレビドラマ博覧会』という展覧会を開催したり、ツイッターで発言するなどドラマ論に定評がある
Illustration: Tetsuya Murakami Text&Edit: Keiko Kamijo