すべての元凶だった猿渡(桐谷健太)がいよいよ志村(高橋一生)とキリコ(柴崎コウ)に襲いかかりますが……。先週(6月17日)最終回を迎えた『インビジブル』10話を、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが振り返ります。9話はこちら(レビューはネタバレを含みます)
まだ語りたい『インビジブル』最後に志村(高橋一生)が拳銃の腕前を見せてくれた!

キリヒトという存在の悲しさ
これまで9話にわたって、というかドラマの中の時間軸でいえば何十年にもわたって、真実の姿を慎重に隠し続けてきた猿渡(桐谷健太)。そんな猿渡が最終話冒頭、次々と話しはじめた。どうやって犬飼(原田泰造)を殺したか、なぜキリヒト(永山絢斗)に近づいたか。ともかく彼があらゆる事件の影にいて、キリヒトさえも操っていたことが顕になった。さらに志村(高橋一生)とキリコ(柴咲コウ)を内通者と首謀者に仕立て上げ、警察及び脱獄させた凶悪犯罪者・クリミナルズたちに追わせる。
それにしても、キリヒトはなんと悲しい存在だったのだろう。自ら殺した父に対して「あいつが僕を愛してたわけないだろ」という認識のまま。考えが短絡的で、自己顕示欲がけっこう強い。インビジブルという裏の世界で犯罪者を操るポジションに居続けても、いつか破綻しそうなタイプ。結果、猿渡にいいように転がされ、最後にはその猿渡に撃たれてしまった。「キリコに認めてもらえないんなら生きてる意味ないしな」と姉への執着は相変わらずだったが、キリコの必死の訴えも理解できずに死んでいってしまった。「キリヒトとわかりあえないなら私も生きてる意味がない」とまで言ったキリコは当然ながら深く落ち込んでいたが、それでも志村という存在がいるから、猿渡の暴走を止めるため前に進むしかない。
問い続けた善悪の姿勢
「あの男には悪意がない。人を殺すことが悪いことだと微塵も思ってない。むしろ楽しんでる」。『インビジブル』というドラマはずっと、善悪がはっきりと分かれている状態を疑ってきた。キリコの猿渡評はまさにその象徴といえるかもしれない。悪意がみじんもない人間にこそ、最大の悪が潜んでいたわけだ。
猿渡が子どもの頃に家政婦を殺害したこと、警察官になってからOLを殺したこと、そしてその殺人を見られて安野を殺したことは判明した。そして安野殺害の瞬間の「志村さんの顔がいとおしくてたまらなくなって」「だから殺さずに生かしておくことにしました」「あれから毎日のようにずっとあなたを見てました」とむき出しの執着を最終話で見せてくる。それ以上の猿渡の犯罪の詳細は描かれないけれど、そんなものはどれだけ過去を辿ったって「悪意がない」時点でわかりはしないのかもしれない。きっと、だからこそタチが悪いのだ。
1話の登場時、志村は暴力的な警察官だった。安野殺しの犯人を探すために怪しい人物を平気で殴っていた。その後も、警察官としてはグレーな振る舞いをたびたびしていた。その志村が、競技場で警察の仲間たちとともに猿渡を追い詰めるシーンで「お前を殺さない」「俺は刑事だからな」と話す。志村はこれまで、犯罪者に対しては常に「死ぬよりつらくても生きて罪を償え」という警察としての落とし前のつけ方を選んできた。たとえ相手を殺すほうがこの先の新たな犯罪の芽を摘み取れるとしても、決して殺しはしない。それはキリコとて同じ考えだった。自分が殺されそうになっても「殺さないで。私たちがやってきたことが本当に無駄になる」「私は志村さんの正義を信じてる」という。
白黒ないまぜになった二人は、最後まで自分たちの信じる正義を貫いたのだ。1話ではモノトーンのグレーベースのシャツを着ていたキリコが、ラストでは同じくグレーの、でも白の面積の多いワンピース姿だったのは、これからも白と黒を混ざらせながら、それでも正義に進んでいくという意味が込められているのかもしれない。
最後に残された拳銃の腕前
これまでこのドラマで幾多のアクションを見せてくれた志村が、最後に拳銃の腕前を見せてくれるのはなかなかに楽しい趣向だった。巧みに人を操っていたはずの猿渡が、「志村は射撃が下手」というなんてことのない警察内部での噂話を信じたばかりに失敗したのだ。
善悪について疑い続ける姿勢、主要キャストの熱演、何よりも爽快な高橋一生のアクション! 『インビジブル』は週末の夜を楽しむのにぴったりのドラマだったと思う。
脚本: いずみ吉紘
演出: 竹村謙太郎、棚澤孝義、泉正英
出演: 高橋一生、柴咲コウ、有岡大貴、堀田茜、原田泰造、桐谷健太 他
主題歌: Dragon Ash『Tiny World』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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