見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
海外監督の視点から映した「日本」。あの映画の舞台になったのは?『命みじかし、恋せよ乙女』編

『命みじかし、恋せよ乙女』(19)
ドーリス・デリエ監督
旅館・茅ケ崎館(神奈川県茅ケ崎市中海岸3-8-5)
『フクシマ・モナムール』(16)など、これまでも日本を舞台にした映画を手がけてきたドイツ人女性監督ドーリス・デリエが、『HANAMI』(08)の続編として発表した作品。
亡くなった後もカール(ゴロ・オイラー)を抑圧し続ける父親の記憶から逃れるため、酒におぼれ、離婚した妻と暮らす娘にも会えない日々を過ごすカール。彼のもとに生前父と親交があったというユウ(入月絢)が訪ねてくる。空き家となった実家で彼女と暮らすうち、目を背けてきた家族とのわだかまりに向き合うことになるカール。男性的な機能ではなくありのままを受け入れてくれるユウに心を開いた頃、彼女は突如姿を消す。ユウを探すためにミュンヘンから日本へやってきたカールは、女性ものの着物を身につけている。男性優位主義の亡霊から身を守るように。死者とつながりのある女将(樹木希林)は、そんな彼の葛藤を自然のものとして受容する。
カールが女将に迎えられる宿が、1899年創業の老舗旅館「茅ケ崎館」。かつては小津安二郎が、現在は是枝裕和が滞在し脚本を執筆するというこの場所で、本作の構想を得たというデリエ監督。宿の記憶に触れるような宿泊体験ができそうだ。
『命みじかし、恋せよ乙女』(19)DVD ¥1,257/発売・販売元: ギャガ ©2019 OLGA FILM GMBH, ROLIZE GMBH&CO. KG
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text&Edit: Tomoko Ogawa