見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
海外監督の視点から映した「日本」。あの映画の舞台になったのは?『ムーンライト・シャドウ』編

『ムーンライト・シャドウ』(21)
エドモンド・ヨウ監督
羽村堰下橋(東京都羽村市羽)
1989年に刊行されて以来、国内外で愛され続ける吉本ばなな初期の短編『ムーンライト・シャドウ』を、マレーシア出身のエドモンド・ヨウが幻想的な映像表現で映画化。
恋人の等(宮沢氷魚)を突然の事故で失ったさつき(小松菜奈)と、兄と恋人ゆみこ(中原ナナ)を一気に失った等の弟、柊(佐藤緋美)。生きる気力を失い、それぞれの方法で深い悲しみに向き合おうとする中、2人は偶然出会った不思議な女性、麗(臼田あさ美)に導かれ、満月の夜の終わりに死者と再会できるという「月影現象」に遭遇する。
この物語、生と隣り合わせの死を象徴するかのように、至るところに川と橋が出てくる。さつきと等が恋に落ちたのも橋の下の河原、2人のデートは手漕ぎボートの上、柊の家の庭には、地下から川の水が流れ込む井戸があり、等との別れも麗と遭遇するのも橋の上、といった風だ。
クライマックスの「月影現象」のシーンが撮影されたのは、多摩川から分水されたばかりの玉川上水が流れる羽村堰下橋である。なじみが深いはずの多摩川は、確かにあの世との境目として存在し、残された者たちが生を見出す流れとして眩く映った。
『ムーンライト・シャドウ』(21)Netflix Japanにて好評配信中。©2021映画「ムーンライト・シャドウ」製作委員会
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text&Edit: Tomoko Ogawa