林遣都と仲野太賀がW主演を務めるドラマ『初恋の悪魔』(日本テレビ)。『Mother』『Woman』『anone』に続く、坂元裕二脚本×水田伸生監督×次屋尚プロデュースによるこの作品は「ミステリアスコメディー」と銘打たれている。クセのある停職処分中の刑事・鹿浜鈴之介(林)と、警察署で働きながらも総務課という捜査に関わりのない部署で生きてきた馬淵悠日(仲野)が出会う1話を、ドラマを愛するライター釣木文恵と漫画家オカヤイヅミが振り返ります。(レビューはネタバレを含みます)
林遣都×仲野太賀『初恋の悪魔』坂元裕二脚本が考察を否定する

偏見とこじつけの「考察」をする登場人物たち
1話完結型の推理ドラマ。主人公の兄の死、もうひとりの主人公の素性、彼が監視している隣家の男……。“考察”しがいのありそうな要素が積み重なっている『初恋の悪魔』。けれどこうしていろいろと書くことがためらわれてしまうのは、このドラマそのものが“考察”をやってのけているからだ。
ある病院で、入院している少年が転落死する。刑事課の面々が事故として処理しようとしていたこの件について、ちょっとしたきっかけから捜査することになる4人。警察署の総務課で働く悠日(仲野太賀)、停職処分中の刑事である鈴之介(林遣都)、会計課の小鳥琉夏(柄本佑)、生活安全課の摘木星砂(松岡茉優)という「逮捕も尋問もできない」面々。だから考察するしかない。ところがその内容はこじつけや飛躍に満ちたもの。容疑者である医師の顔つきを見て「シリアルキラーである可能性が高い」と決めつけたり、窓辺の花束の花言葉に意味を見出したり。
あるいは、隣人(安田顕)を密かに監視しては「こんな時間に家にいる」から、という自分基準の偏見によって「いつか犯罪を犯すに違いない」と決めつける鈴之介。
その姿は、作者の意図しない意味を無理やり見つけようとする私たちに重なる。4人による考察会議の中で「僕の事件に恋愛要素を足してつまらなくするんじゃない!」という鈴之介の叫びは一見作り手の叫びのようにも見えるが、この鈴之介だって考察する側でしかないのだ。
「社会を悪くする前向きさ」への言及
「負けてる人生って、誰かを勝たせてあげてる人生です。最高じゃないですか」
坂元裕二ドラマの醍醐味、心にズバンと飛び込んでくるセリフ。ドラマ冒頭で悠日が語るこの言葉は、しかし物語中盤で否定される。
悠日を否定したのは、署内で敬遠されがちな琉夏。自分の話を唯一聞いてくれる新人刑事・服部渚(佐久間由衣)の不遇の姿を見て、彼女のために捜査をしようと「職場の隅に追いやられ軽んじられ嘲笑されている人がいる、君は悔しくないのか」と悠日に持ちかける。
「ぼくたちが隅にいるから真ん中に立てる人がいるんです」と断ろうとする悠日に、琉夏は言う。「前向きなのは結構だが、社会を悪くする前向きさもあるんだよ」。
このセリフは、日々暮らしが苦しくなる中、声を上げず甘んじて受け入れるいまの私たちに投げかけられたようにも感じられた。
セリフとともに響く、掃除機の音
鈴之介、悠日、琉夏、星砂の4人は、さまざまな考察を重ね、4人が納得する真実にたどりつく。そして、無事渚を助けることに成功する。
4人といえばすぐに思い浮かぶのは『カルテット』(TBS)。『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ)も1+3=4人を中心とした物語だった。乱暴なくくり方だけれど、これらの過去作を思い浮かべれば、これからの4人への期待はさらに高まる。
それにしても、1話では掃除機の音が際立っていた。鈴之介の豪邸をかけまわるロボット掃除機の音。星砂が頼った町医者の「おばちゃん」・小洗杏月(田中裕子)は彼女たちにかまうことなく旧式のうるさい掃除機をかけ続け、星砂に足でコードを引っこ抜かれてさえいる。
鈴之介は停職処分中、小洗はどうやら監察医だった過去があるらしい。二人に共通する何かが、これからさらに明らかになってゆくのだろうか。
それにしても、鈴之介は読めない。始終ロボット掃除機が動いているところを見ると綺麗好きなのかなとも思うが、机の上に来客用のスリッパを乗せるところを見ると無頓着なのだろうか。悠日の持ってきた資料をめくるときに指を舐めていたのも気になった。
気になったといえば、署長の雪松鳴人(伊藤英明)だ。悠日の兄の死に対して疑念を持ち、その容疑者・鈴之介に接触するよう悠日にけしかけたと思ったら、1話終盤では急に疑いの矛先を悠日自身に向けていた。この根拠ゼロの手当たり次第感はなんだろう。
そして、いまいちばんの謎を抱えている星砂。ダニエル・ジョンストンのTシャツにスカジャン姿、ぶっきらぼうなしゃべり方の彼女は、時折ゴージャスなハイヒールやハイブランドっぽいバッグなどを買うことがあるようで、しかもどうやらそれを自分で覚えていないらしい。さらに、彼女は悠日の兄の事件に対して何か調べたがっているよう。
……と、つい考察らしきことをしてしまった次の瞬間、鈴之介の振る舞いを思い浮かべてはおかしくも気まずい気持ちにさせられる。この3か月は『初恋の悪魔』に翻弄されそうだ。
脚本: 坂元裕二
演出: 水田伸生、鈴木勇馬、塚本連平
出演: 林遣都、仲野太賀、松岡茉優、柄本佑 他
主題歌: SOIL&”PIMP”SESSIONS『初恋の悪魔』
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Writer 釣木文恵
ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
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