2022年10月15日(土)から2023年1月30日(日)まで、「プラダ 青山店」にて現代美術家サイモン・フジワラの展覧会『Who the Bær』が開かれる。作家が生み出したキャラクターが、現代社会のさまざまなテーマを辿っていく。
「プラダ 青山店」でサイモン・フジワラの展示。キュートなクマが社会の歪みを映し出す
ベルリンを拠点に活躍するサイモン・フジワラ。イギリスと日本の二国にルーツを持ち、建築学を専攻したのちフランクフルトでアートを学んだ。
彼の作品メディアは多岐に渡り、作風を一言でまとめるのは難しい。ただ、その関心はいつも、観光や歴史、そしてそれらをも全てひっくるめて蠢いている新資本主義的世界の在り方にある。今回「プラダ 青山」で行われる展示では、現代社会が抱える歪みを、ファンタジー要素あふれる手法で炙り出していく。
Who the Bærというのは、フジワラが生み出した架空のキャラクター。おとぎ話や空想文学、テーマパークの世界観などがベースにあるそう。Whoは、クマの形はしているけれど、まだ自意識も育ちきっていない。特定のアイデンティティやジェンダーも持たないWhoは、自分は何者なのかを探す旅に出る。展示を訪れた人はみな、Whoと一緒に入り組んだ世界の中に分け入っていくことになる。
イラストやアニメーション、彫刻などさまざまな作品が登場し、Whoの旅を形作っていく。それは同時に、今の世界が抱える多様で複雑な論点への誘いでもあるのだ。気候変動や文化の盗用、美容整形までが、冒険の1ページとして次々と示唆される。たとえば「Who ジアム」というコーナーでは、世界が現在の姿に至る背景-植民地主義や文化遺産の略奪と返還など-にも切り込んでいく。
このポップで可愛らしい世界観が、するりと世界の闇に触れていく。キャラクターの成長と変化を見守るつもりで展示を進むと、いつの間にか現代社会が投げかける課題に踏み込んでいくことになる。クリエイションを通して現代的なテーマに訴求することがアートだとしたら、フジワラの本展示はまさにそれだ。
ヘルツォーク&ド・ムーロン設計の「プラダ 青山店」5階で繰り広げられるのは、Whoが”なりうる”姿を探す旅。社会の複雑さと隣り合いながら、無限の可能性がそこにはある。けれど、展示に向き合うことで見えてくるのは、Whoではなく私たち自身の可能性でもあると思う。