スタイリスト・飯田珠緒さんと〈ケイティ〉のデザイナー・三井リンダさんが“珠琳堂”というユニットを結成。映画に出てくる食のシーンを自ら演じ、その様子を掲載したZINEを発表。2023年9月16日(土)から9月18日(月・祝)まで、「調理室池田」で行われる『メランジェアートブックマーケット』で販売される。早速、製作秘話を飯田さんに聞いた。
飯田珠緒と三井リンダによるユニット・珠琳堂がZINEを発表!
映画に出てくる食事のシーンを自作自演で徹底的に再現。

飯田珠緒さんの“珠”と、三井リンダさんの“琳(リン)”を冠した“珠琳堂”というユニットが新たに始動した!
さかのぼること、6月初旬。アーティスト・小町渉さんからブックフェアの誘いがきたのだそう。
「私は、本の仕入れも販売についてもわかりませんし、初めは参加するのを悩んでいました。小町さんとやりとりをしていくうちに、『ZINEでも作れたらそれを販売するとか……無理かもしれませんが……』となにも考えずに言ったところ、それができるならぜひお願いしたいと頼まれ、製作することに。途中まで、ファッションの仕事も繁忙期に入るしやめておこうかなと躊躇していたのですが、そんなときに思い出したのが友人のリンダ。彼女と一緒なら、なにかおもしろいことができるかもしれないと、すぐに声をかけました。それから、お茶を飲みながらあーでもないこーでもないと打ち合わせを重ねました」
そこで決まったのが、以前、三井さんがブログで披露していた映画のワンシーンを再現する企画だった。一冊のZINEとして形を変えて復活することに。

「今回は、“食”をテーマにしました。映画のなかで食事のシーンは、印象的なものが多い。作品をみていても、おいしそう!食べたい!かわいい!なんだこりゃ!?という感情が溢れます。また、私たちは、若い頃から海外の食習慣への憧れもありました。そして、私自身、ファッションと同じくらい“食”に興味深く、単純に食いしん坊なので、きっとおもしろくなるだろうという思いもあります。ZINEでは、『わんわん物語』(’55)や『バベットの晩餐会』(’87)、『ハンニバル』(’01)など、全11作品をオマージュ。撮影は、水谷太郎さんと荒井俊哉さんに依頼しました。荒井さんは、メジャーな作品だけでなくマイナーな映画まで、とても詳しいんです。お二人とも、素晴らしい写真家であり、なにより私たちの感覚をきちんと理解してくれています。『協力して〜』と、半ば強引にこのプロジェクトに引きずりこんだ形(笑)。ロゴマークやグッズも作りなよという助言もたくさんくれて、結果、おもしろがって参加してくださいました!意見を交わし合い、自分たちの想像の遥か上をいくクオリティに仕上がりました。彼らには本当に感謝しかありません」と飯田さん。

全11作品は、洋画から邦画だけでなく、アニメまでと幅広いラインナップ。セレクトした作品のバランスにもこだわり、細かい設定も表現に取り入れた。
「たくさんの候補が挙がっていましたが、ジャンルや年代が偏らないように気をつけました。忠実でなくとも、無理矢理演出するのも良い絵になりそうだと思い、アニメも取り入れています。作品ごとのシチュエーションや背景にあるカルチャー、着ている衣装、時代についても、撮影したカットに盛り込みました。たとえば、『ハンニバル』(’01)のページでは、レクター博士が逃亡中に広げた『ディーン&デルーカ』のボックスを再現しています。今でこそ知られたお店ですが、90年代を過ごした私たちにとっては雑誌『オリーブ』に載っているのを見て憧れていた存在。映画に登場したのも日本に入ってくる前でした。『バベットの晩餐会』(’87)では、質素でストイックなキリスト教徒である老姉妹になりきりました。禁欲的でありながらクラシックでかわいらしいファッション、そして、19世紀のフレンチ料理を彩る食器やカゴ、キッチンの様子の華やかさにも着目しています」
演出する上で使用したプロップも見どころたっぷり。細かな工夫が詰め込まれている。
「『吉原炎上』(’87)は、吉原にあるねぎま料理のお店で撮影しています。私たちが着用している浴衣は、リンダ作。いちごのかき氷も、食品サンプルキットとガラスの器を組み合わせたアシスタントによる手製です。『サスペリア』(’77)のカットは、ねとっとして見えるように赤ワインに血のりを混ぜてます。実は、一番大変だったのは『タクシードライバー』(76')。ロバート・デ・ニーロが食パンにかけていたピーチブランデーがなかなか見つからなかったんです」。
食事のシーンだからこそ、準備にも時間がかかったという。
「料理を作らなくてはいけないので、撮影前日はほぼ徹夜で臨みました。お菓子は、特に難しいので、プロに頼むことも。『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(’94)は、撮影でお店を貸してくださった『ブレックファーストクラブ』の塩井ルリさんにお願いしています。『バベットの晩餐会』(’87)のクグロフは、以前フレンチで働いていた私のアシスタント・玉吉が綺麗に焼いてくれました!」

写真からも文からも、思い切り楽しんで絵づくりしているのが伝わってくる一冊。何気なく見ていた作品にこんな食べ物がでてきたっけと、二人が作る世界観を通して、新しい映画の一面に出合えるかもしれない。
さて、今回、ZINEが初めてお披露目されるのが、2023年9月16日(土)から9月18日(月・祝)まで「調理室池田」で開催される『メランジェアートブックマーケット』。アートブック専門店「フロットサムブックス」やZINE専門パブリッシャー『モトヨシノ』が出展するほか、アーティスト・小町渉さんやフォトグラファー・草野庸子さんなど、人気クリエイターも参加する。この3連休に出かけてみては?
ℹ️
【メランジェアートブックマーケット】
日程: 2023年9月16日(土)〜9月18日(月・祝)
時間: 8:00〜15:00
会場: 「調理室池田」2階ギャラリースペース
住所: 神奈川県川崎市宮前区水沢1-1-1中央卸売北部市場関連商品売店棟 45
Text: Nico Araki