現在、5月12日(日)にかけて京都市内の各所を舞台に、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024」が開催中。芸術や文化の分野で活躍する女性の才能に光を当てることを目的としてケリングにより発足された「ウーマン・イン・モーション」の支援により京都市京セラ美術館 本館 南回廊2階で展示されるのは、世代の異なる二人の女性作家による対話的な展覧会だ。世界的に活躍する川内倫子が今回の二人展「From Our Windows」のコラボレーターに選んだのは、1975年頃よりフリーランスの写真家として活動を始め、土門拳賞、日本写真協会作家賞などを受賞する潮田登久子。展示開始直前の二人に、それまでほとんど交流がなかった彼女たちがそれぞれの窓から見える風景を持ち寄り、二人展を生むに至るまでの道のりと、作家として、女性として、積み重ねてきた身近なものを撮るという時間について聞いた。
写真家、川内倫子と潮田登久子
二人がKYOTOGRAPHIEで見せた、それぞれの窓から見える家族と日々の風景

──今回、KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭とケリングのプログラム「ウーマン・イン・モーション」のパートナーシップによる二人展のオファーがまず川内さんにあり、その後、川内さんが潮田さんを指名したそうですね。
川内 2022年に潮田さんが『マイハズバンド』(torch press)を出版されて、今まで見たことがない潮田さんの側面を拝見しました。自分も家族を被写体にした写真集を出していることもあり、勝手ながらちょっと近しいものを感じて。被写体は同じ家族ではありますが、独立した空気感、世界観がある潮田さんの作品と自分の作品を並べて展示したら面白いのかなと、お声がけさせてもらいました。
潮田 PGIの高橋朗さんを通じてご連絡をいただいたのですが、私は川内さんの写真をちゃんと見たことも写真展にも行ったこともなくて、もちろん新聞の写真評を読んで有名な方だとは知っていましたが、それ以上のことは何も知らなかったんです。PGIの展示に来てくださったときに、ちょっとすれ違った程度でね。
川内 そうそう。そのときにご挨拶をさせていただいて。
潮田 それで、慌てて調べたら、主にローライフレックスで撮っていらっしゃるとわかって。私ブロニカのS2を使っているので、正方形の中で同じようなことをやってるなと思って、そこで僅かな接点を見つけて。もしかしたら、同じ四角い窓の中でも全然違うものが見えているのかもと感じて、ちょっと冒険してみようと清水の舞台から飛び降りてみました(笑)。

──『マイハズバンド』に今までに見たことがない側面を拝見した、と先ほど川内さんはおっしゃっていましたが、特にどんな部分にそう感じたのでしょうか。
川内 全体に流れている空気やムード、トーンは今までの潮田さんの作品ともちろん一緒なのですが、家族という被写体がやっぱり強いんでしょうね。「冷蔵庫/ICE BOX」のシリーズにも少し似ていて、どこかプライベートを見せてもらっている感じがしたんですよね。
潮田 ちょっと恥ずかしいところをね。
川内 そう。でも母としての目線ではなく、一貫して写真家の目なんです。家族の写真なのにそれぞれの孤独を感じさせるところもすごくいいなと思いました。子どもを撮るとどうしても甘いムードになりがちなのに、全然ならないですよね。
潮田 私は高齢出産で、38歳のときに娘を産みましたが、生まれてから私の役目は終わったなと思ったんです。それに、島尾(伸三)の方が私より子育ても抱き方も上手でしたから。川内さんの写真を見た島尾は、男性っぽいと言っていたんですよね。
川内 へぇ、そうですか。すごく女性っぽい作品だといままで言われてきたので新鮮ですね(笑)。
潮田 でもね、面白いのは、子どもが愛おしいという思いが丸見えなのは同じなの。だけれども、接し方や表現の仕方は全然違うというところが面白いですよね。今回、ご一緒するにあたって、いただいた写真集『Cui Cui』(FOIL)を見ていて、川内さんのおじいさんとおばあさんが写っていて、初めは仲のいい素敵なご夫婦だなと思っていたくらいだったんです。でも、今は自分のアルバムのような感覚で毎日見ています。川内さんは滋賀県の出身で、私は東京に生まれ育っていて全然違うのに、写っているものひとつ一つを近しく感じるし、共感できるんですね。あ、このスイカ美味しそうだなとか、いちごは昔こうやって食べたなとか。
川内 昭和の空気感がありますよね。
潮田 そう。しかも、低い位置から撮っていらっしゃるし、柔らかい色合いでしょう。だから沁みるんです。何でもない風景だけれど、ああ、いいな、こういう景色を私もずっと見ているなと思える。いくら川内さんに素敵なおじいさんとおばあさんがいらしても、13年間、二人の生活を受けとめながら撮ってらっしゃったというのは尊敬します。本当にこんな写真集に出合ったことはなかったので、みなさんにおすすめしたいですね。一家に1冊あったらいいと思います。

Photo_Koichi Tanoue Edit&Text_Tomoko Ogawa