「まだ見たことがないもの」を信条に、作家性を大切にしたフレッシュな作品は公開されるたびに大きな話題をよび、映画界での存在感をますます高めている。現地関係者への取材や新旧のタイトルを考察し、あらためて「A24」の魅力に迫ります。
“A24らしさ”が詰まったマストウォッチリスト
国際映画祭などで発掘した監督らの作品を配給し、自らのブランドを確固たるものにする傍ら、作家性の強い個性的なタイトルを多数製作してきたA24。そのラインナップは配給作品と製作した作品をあえて区別しないスタイルで、ポスターなどにも“A24 presents”と表記されている。今回、製作作品のみを並べて見えてくるのは、一般受け度外視の作家性の強いクリエイターばかりを支援している姿勢だ。配給し、縁ができた監督の新作や、映画を初めて手がけるコメディアンや俳優などもサポートする。パーソナルな映画を自由につくる場を提供することこそが、A24らしさであると伝わってくる。
『ファニー・ページ』
(22)
子役時代、『イカとクジラ』(05)に出演し、俳優をしながら自主映画を制作していたオーウェン・クラインの長編監督デビュー作。自身の10代を批判するような脚本を、ジョシュア&ベニー・サフディ監督が気に入り、サフディ兄弟とA24の製作で本作が完成した。居場所のなさを感じていた高校生のロバート(ダニエル・ゾルガードリ)は、師と仰ぐ人物の死をきっかけに、カートゥーン作家を目指すことを決意する。学校を中退し、実際に居場所のない中年男性たちと共同生活を始める。ひねくれた青春の日々のオフビートなユーモアが、なんとも言えない後味を残す。
『ディック・ロングはなぜ死んだのか』
(19)
世界中の映画祭で絶賛を浴びたダニエル・シャイナートとダニエル・クワンが手がけた映画『スイス・アーミー・マン』(16)の全米配給権を購入したA24。その後、シャイナート監督、ビリー・チュー脚本による実際に起きた事件から着想した本作を製作することに。アメリカの片田舎で、ガレージに集まり馬鹿騒ぎをしていた売れないバンド仲間の一人が、ある原因によって突然死してしまう。噂話が広がる中、死の真相を知る友人たちは、それをひた隠しにしようとする。馬鹿馬鹿しさと悲哀に満ちた語り口に踊らされる。監督自身がディックを演じる。(PG12)
『ライトハウス』
(19)
ロバート・エガース監督・脚本による長編映画デビュー作『ウィッチ』(15)をA24が配給したことから、次作『ライトハウス』を共同製作。弟のマックス・エガースとともに脚本を執筆し、ロバート・パティンソンとウィレム・デフォーという二人の名優を主演に迎えた。1890年代のニューイングランドの孤島を舞台にした本作。灯台と島を管理するためやって来たそりの合わない二人の灯台守が、徐々に狂気と幻想に侵されていく様をモノクロームの映像で映し出す。島を襲う嵐に、観ているこちらまで外界と遮断され、幽閉されたかのような感覚になる。
Text_Tomoko Ogawa