ソウルで暮らす12歳のノラとヘソンは、惹かれ合っていたが離れ離れに。24年後、結婚しNYで暮らすノラの元にヘソンが訪ねてくる。A24と『パラサイト 半地下の家族』(19)を配給した韓国のCJ ENMによる共同製作。
『パスト ライブス/再会』セリーヌ・ソン監督、グレタ・リー&ユ・テオにインタビュー
時間と場所を超越する人と人との強い結びつき
韓国系カナダ人のセリーヌ・ソン監督の長編デビュー作となる『パスト ライブス/再会』が、2024年のアカデミー賞で、作品賞と脚本賞の2部門にノミネートされた。公開と同時に米批評家からも絶賛されていたとはいえ、いきなり主要部門に名を連ねるのはやはり快挙だ。物語は、12歳の時にソウルで出会い、淡い恋心を抱いたまま離れ離れになった二人の主人公が、24歳、36歳になった時の3つの時代を追ったもの。「あのとき告白していたら」と、誰もが共感できるような題材の中で、アジア系移民をヒロインにするなど独自の設定を打ち出している。劇作家出身のソン監督が今作を撮るにあたり、参考にしたものがあるそう。
「キャストのみんなに観てもらった映画が一本あります。ルイ・マルの『My Dinner with Andre』(81)です。夕食時に会話しているだけで、特別なことは起きませんが、俳優が話す言葉に世界が開けたように感じました。自分の映画でも、ヘソン(ユ・テオ)が『君の夫が好きになれて、こんなに心が痛くなるとは思いもしなかった』という台詞がありますが、脚本では『そこで海が開ける』と書いていました」
『パスト ライブス/再会』は、監督の体験に基づいた半自伝的な内容だ。
「本作のオープニングシーンと同じ経験をしたことがあるんです。NYのイーストビレッジのバーで、子どもの頃に好きだった人とアメリカ人の夫に挟まれて座ったことがありました。夫は英語しか話せず、初恋の人は韓国語しか話せない。だから私が通訳をしました。その時、本来出会うはずのない二人が言葉の障害を乗り越えて、お互いを知ろうと努力をしている様子を見て感動したんです。映画になると思いました」
この作品は、時間と場所の障害を超えた、結びつきについて描いたものだという。
「時間と場所を意識しないまま過ごしている人も多いかもしれませんが、ふたつがぶつかり合い、いかに人生に重くのしかかってくるか。それを明確に描きたかったのです。また、恋人や結婚相手でなくても人を愛することはできる。その人を尊敬して、大事に想うことは、長い時間や場所の隔たりがあっても可能だと感じます。突き詰めると、私がこの映画で描きたかったことはそういうことなのです」
とくに印象的だった映画終盤のUberを待つシーンについて監督に聞くと、 「撮影は2分間でしたが、ふたりにとっては永遠にも、すごく短くも思えたはずです。矛盾していますが、その両方でなくてはいけなかったのです。12歳の時には幼すぎて言えなかったことを、ふたりは24年経ってからNYで伝えます。おかげで置き去りにされたままの子ども時代に〝さよなら〟ができたんです」。
ヒロインのノラを演じたグレタ・リーに今作の印象について聞いた。
「私がこれまで演じてきた役は、アジア系であることの意味を説明するような役ばかりでした。でも、ノラはまず〝女性〟であることを第一に描かれていました。現代的で、自分がどんな男性を選ぶかで人生が決まるとも思っていない。知的でカッコいい女性だと思いました。そういう役を経験してこなかったので、驚いたし、最高でした」
共演者のユ・テオは、こう語る。
「脚本を読んだ瞬間に、感動して泣き出してしまったんです。そんなことこれまでなかったのに。また、監督が韓国では日常的に使う〝inyeon〟を分かりやすく世界の観客に向けて紹介してくれたのがうれしかったです。それは生まれ変わり(輪廻転生)の概念で、映画では、人生は一度きりではなくて、また次があることが語られています。そんな作品に出演できて幸運でした」
Text_Akemi Nakamura