伝説のプロレスラーを父に持つエリック兄弟。次男のケビン(ザック・エフロン)をはじめ、兄弟たちはプロの世界に入り頂点を目指す。そんな中、一家を次々と悲しい出来事が襲う。
『アイアンクロー』ショーン・ダーキン監督にインタビュー
〝プロレス一家〟の栄光と呪い。映画にすることで訪れた癒やし
プロレス界で伝説となっているフォン・エリック一家の栄光と〝呪い〟を描いた『アイアンクロー』。ザック・エフロンを主演に迎え、A24が製作した。
一家は〝鉄の爪〟を得意技とし1960〜70年代に一世を風靡。その一方で、6人兄弟のうち5人が亡くなるという悲劇が起こっている。脚本と監督を務めたショーン・ダーキンは大のプロレスファン。
「内気な7歳の僕にとってはプロレスが救いで、夢中になりました。ケリー (四男/ジェレミー・アレン・ホワイト)の試合も何度も見に行き、死んだ時のことが今でも忘れられない。ショックを引きずっていて、それが本作を撮るきっかけにもなったと思う」
一家の成功の陰で、厳格な父と次々に亡くなる息子たちの関係など胸が苦しくなる展開だが、希望となるのが本作の主人公で一人生き残ったケビンだ。演じたザック・エフロンは、肉体的な変貌もさることながら、内面の葛藤をリアルに表現し、キャリア最高と言える演技を披露している。
監督に彼を起用した理由を聞くと。
「ザックの大ファンで一度仕事したかったんだ。僕が作るような心理的な作品に出ているのは観たことがなかったしね。ケビン本人は、プロレスというある意味暴力的な世界にいながら、すごく優しい人なんだ。悲痛な体験をしているのに、心を開いてなんでも正直に話せる人で感動した。ザックに対面したときも、温もりがあふれ出ていて、彼ならこの役ができると感じた。この物語を構成する上で、光の導き的な役割を果たしてくれたんです。そのカリスマ性で最後まで作品を背負ってくれました」
本作で監督が描きたかったことは?
「ケビン本人と話した時、兄弟愛を描いてほしいと言われましたが、まさにそれを考えていた。弟のケリーが自殺した時、遺書に『死んだ兄弟に会いたいから』と書いてあったので、劇中ではみんなで優しく手を取り合うシーンを作り、それを叶えました。厳しい父親に育てられ、生きている間はそれもできなかったはずだから」
Text_Akemi Nakamura