ヨーゼフ・ボイス [ヴィトリーヌ]#1,2
2024年7月17日より「GYRE GALLERY」にて、『ヨーゼフ・ボイス ダイアローグ展』が開催される。戦後ドイツ美術の第一人者であるヨーゼフ・ボイスの代表作「ヴィトリーヌ」シリーズが展示されるほか、日本人アーティストも出品。没後38年を過ぎたいま、なぜボイスなのか。彼の作品意図を、6名の作家との「対話」を通して探る内容となっている。
難解と評されるボイス作品の背景に想い馳せる
ヨーゼフ・ボイス [ヴィトリーヌ]#1,2
2024年7月17日より「GYRE GALLERY」にて、『ヨーゼフ・ボイス ダイアローグ展』が開催される。戦後ドイツ美術の第一人者であるヨーゼフ・ボイスの代表作「ヴィトリーヌ」シリーズが展示されるほか、日本人アーティストも出品。没後38年を過ぎたいま、なぜボイスなのか。彼の作品意図を、6名の作家との「対話」を通して探る内容となっている。
マルセル・デュシャンやアンディ・ウォーホールと並ぶ、20世紀を代表するアーティスト、ヨーゼフ・ボイス。しかし彼の作品は「難解」、「とっつきづらい」と言われることが多い。というのも彼が提唱した「拡張された芸術概念」には、教育・政治・環境保護活動や宗教なども含まれていて、さらに社会と関わるすべての活動を「社会彫刻」と呼び、これもまた芸術にカテゴライズしていたから。たとえば自身が野ウサギの死骸を抱いたパフォーマンス[死んだウサギに絵を説明する方法]なども作品として発表しており、本作は今でも当時の記録写真が展示されることがあるのだが、一見しただけでは「何が表現されているの??」となってしまう。
今回の展覧会では、彼の代表作である「ヴィトリーヌ」シリーズを見ることができる。“ヴィトリーヌ”とは聖遺物や自然史的遺物を展示する際に用いるガラスケースのこと。ボイスは社会変革を目的としたパフォーマンス「アクション」をたびたび実施しており、このアクションで使った遺物をガラスケースに納めて作品化してきた。なかでも「ヴィトリーヌ」シリーズは「アウシュビッツ=ビルケナウ博物館」に展示されているガラスケース入りの遺品への反響作として発表され、ホロコースト問題を苦慮したボイスによる社会への問いかけを意味するとされている。
さまざまな問題提起が背景にあるボイス作を読み解けるようにと、本展には6名の日本人アーティスト作が並ぶ。ボイスと直接親交があった若江漢字の作品もあり、彼の目線を通すことでヨーゼフ・ボイスへの理解がより深まるはず。ほか、ボイス来日時にポートレートを撮影した畠山直哉、写真や彫刻によって人が持つ時間感覚を再考する磯谷博史、自分と社会が相対的に現れるような絵を描く加茂昴、人と生き物の関係性を考えるAKI INOMATA、情報があふれる現代におけるリアルを問うインスタレーションを発表する武田萌花も出展。
ボイスと彼らが対話をしているかのような展示形式を通じ、彼が社会に対して提議した問題意識を汲み取りながら、私たち自身の考えるきっかけにもしたい。
1921年ドイツ・クレーフェルト生まれ。脂肪やフェルトを素材とした彫刻作品の制作、アクション、対話集会のほか、政治や環境問題にも介入し、その活動は多岐にわたった。幼少期より自然や動物に関心を寄せ、彫刻家ヴィルヘルム・レームブルックの作品集に感銘を受ける。40年、通信兵として第二次世界大戦に従軍。冬のクリミア半島に墜落し生死をさまようも、居合わせた遊牧民のタタール人がボイスの傷を脂肪で手当てし、フェルトで暖を取って救助したとしている。この経験は後の彫刻作品の根幹となり、ゆえに素材には従来の石や木ではなく、熱を保持する脂肪やフェルトを用いている。戦後、23歳のときにデュッセルドルフ芸術アカデミーに入学。彫刻家ヨーゼフ・エンゼリンク、エーヴァルト・マタレーに学ぶ。53年、コレクターのファン・デア・グリンテン宅で初個展を開催。61年にデュッセルドルフ芸術アカデミーの教授に就任し、同じ頃ナム・ジュン・パイクと知り合う。63年に「フルクサス・フェスティバル 」に参加し、最初のアクションを実践する。「ドクメンタ3」(1964)に参加し、翌年のシュメーラ画廊(デュッセルドルフ)での個展で[死んだウサギに絵を説明する方法]を発表。頭に金箔やはちみつをつけたボイスが、ウサギの死体を腕に抱いて絵にふれさせるアクションを行った。74年のアクション[私はアメリカが好き、アメリカも私が好き]は、ボイスが到着したアメリカの空港から救急車でコヨーテのいるギャラリーに運ばれ、1週間暮らした後に、再度ドイツへ出発するというもので、コヨーテとの行動のみを強調することで、先住民に対するアメリカ社会の抑圧を批判した。「ドクメンタ7」(1982)で開催地のカッセル市に7000本の樫の木を植えるアクションを展開。始めに、無機物で死を象徴する玄武石を敷き、その横に生を示す樫の木を植えて、双方が存在することで世界が成り立つことを表現した。このプロジェクトに賛同した人々のように、自ら意思を持って社会に参与し、未来を造形することを「社会彫刻」と呼び、それこそが芸術であると提唱する。社会活動家としては、67年にデュッセルドルフ芸術アカデミーで「ドイツ学生党」を結成し、学生運動を支援。アカデミーの入学許可制限をめぐって解雇されたが、裁判ではボイス側の勝訴に終わる。79年「緑の党」に立候補。84年に来日し、西武美術館で個展を開催した。86年没。
会期_2024年7月17日(水)〜9月24日(火)
会場_GYRE GALLERY
住所_東京都渋谷区神宮前5-10-1 GYRE3F
開館時間_11:00〜20:00
休館日_不定休*GYREに準ずる
Tel_0570-05-6990(ナビダイヤル11:00〜18:00)
企画_飯田高誉(スクールデレック芸術社会学研究所所長)
出展作家_ヨーゼフ・ボイス、若江漢字、畠山直哉、磯谷博史、加茂昂、AKI INOMATA、武田萌花
Text_Ayako Tada