ヒットチャートはラップが圧巻、ランウェイでは黒人デザイナーの台頭など、ますますメインストリーム化するブラックカルチャー。 国内から海外のラップシーンを隈なくウォッチし、ラジオでも活躍中の音楽ライター渡辺志保が送るGINZA読者のための優しいブラックカルチャーコラム。第1回はMD世代なら誰もが知る「あの人」です。
誰にだって、憧れるディーヴァがいる。自分のお手本になるような、ロールモデルとして崇める存在。彼女らの言葉に癒されたり、その刺激的なルックスから勇気をもらったり。今回は、ソロ・デビューから20年を経てもまだ世界中の音楽リスナーから愛される強い意志を持つディーヴァの一人、ローリン・ヒルを紹介します。彼女の歌詞やファッションは、実に多くの女性たちを魅了しきたのです。
ローリンと私の出会い
中学生の頃、私はたまに自宅のケーブルTVで流れるローリン・ヒルのMVにいつも視線が釘付けになっていました。「Doo-Wop( That Thang )」ではゼブラ柄のアンサンブルに夜会巻きを合わせたレトロなルックと、それとは対照的な、丈が長めのデニムシャツにタイトなキャミソールのワンピ、そして大振りなシルバーのブレスレットを合わせた姿。1999年のMTV Video Music Wardsのステージでの、ベージュのルーズなタートルネックと赤いサングラスのコーディネートもとても素敵でした。
安室、 MISIA、ローリン…
そして何より、日本のTV CMで見せた、ニットのタム帽と白いホルターネック、そしてフープピアスをはじめとしたゴールドのアクセサリーを合わせた姿は、未だに多くのアラサー&アラフォー女性の目に焼き付いているのでは?と思います。当時、安室奈美恵さんやMISIAさんなど、日本のR&Bオリエンテッドな女性アーティストたちもこぞってローリン・ヒルを憧れの対象として挙げていました。
誤った教育=Miseducation
ローリン・ヒルは、1975年、アメリカのニュージャージー生まれ。高校時代よりヒップホップ・ユニットのフージーズを結成し、1994年にデビュー。グループとして成功を収めると同時に、リスナーや評論家の注目はやがて紅一点であるローリンに集中していきます。そして、1998年に待望のソロ・デビュー作『The Miseducation of Lauryn Hill』をリリースします。本作の幕を開けるのは、とあるクラスルームの風景。授業開始のベルが鳴り、先生が生徒の点呼を始める様子がイントロとして収められています。〈誤った教育=Miseducation〉というタイトルが暗示するように、このアルバムの大きな柱になっているのは、ローリンからの〈教え〉。イントロに続く「Lost Ones」ではスクラッチの効いたトラックに乗せて、「お金のせいで状況がこんなに変わったなんて変な話ね」というシニカルなラップでスタートします。
ローリンの人生はローリング、ローリング…
21歳の時に若くして、そしてアーティストとしてのキャリアもまさにこれから!という時にボブ・マーリーの息子であるローハン・マーリーとの子供を身ごもったローリンですが、「To Zion」ではその際の葛藤や決断すらも鮮やかに描いてみませました。先にも触れた「Doo Wop (That Thing)」では「女の子たち、気を付けて、男たちはアレのことしか考えてないんだから」と、無防備な若い女性に対して警鐘を鳴らします。報われぬ愛をブルージーに歌う「When It Hurts So Bad」やメアリー・J・ブライジとのデュエット「I Used To Love Him」などは、すでに数々の辛酸を舐めてきたような大御所シンガーのような貫禄!とにかく、まだハタチそこそことは思えぬ表現力や語彙の豊かさ、そして歌声のディープさなどの魅力も相まって、アルバムは全世界で1200万枚以上を売り上げる歴史的ヒット作となりました。
演技もすごいぞ
また、ローリンは演技の才能にも恵まれていて、何と言っても「天使にラブソングを2」での彼女の姿に魅了された人も多いはず。ゴスペルからラップまで、劇中で見せる見事な歌唱シーンはもちろんの事、オーバーサイズのシャツとカーディガン、ルーズに履いたソックスとゴツめのシューズなど、制服を着崩したスタイルも激カワでした。私も通学スタイルを真似したかったけど、あいにくセーラー服で残念だったな…。ビヨンセやリアーナ、レディ・ガガらも、こぞって銀幕デビューを経験しているディーヴァたちですが、ローリンはまさにその走りと言えるかもしれません。
ソロ・デビューから20年、快進撃はまだまだ続く
今年は、アルバム『The Miseducation of Lauryn Hill』の発売20周年を記念して、大規模なツアーを廻っているローリン。ドレイクやカーディ・Bといった、最新ヒットを生み出す若手アーティストにも彼女の曲がサンプリングされることが多く、今なお衰えることのない影響力があることを実感させられます。ちなみに、今年、ニューヨークのアポロ・シアターで行われたコンサートでは、自分の楽曲「Ex-Factor」をサンプリングしたドレイクの「Nice For What」を巧みに織り交ぜ、フリースタイルを披露したローリン。『The Miseducation of Lauryn Hill』以降は、2002年にMTVの企画盤となる『MTV Unplugged 2.0』をしたのみで、この16年間、たまにシングル楽曲をリリースすることはあれど、まとまったアルバム作品はお目見えせぬまま。ツアーで新たなエネルギーを蓄えた後にはぜひとも新作を…と期待を寄せているファンは世界中にごまんといるのではないかしら。
なお、彼女の娘であるセラ・マーリーちゃんもまた、モデルとして活躍する若きアーティスト。これからも、クリエイティヴなこの母娘から目が離せなさそう。
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