パリに拠点を構えるデザインスタジオ、アホネン&ランバーグは、柳川荒士が手がける〈ジョンローレンスサリバン〉と10年を越えるパートナーシップを築いてきた。その背景にあるのは、インスピレーションを与え合うクリエイター同士の尊敬と信頼、そして長きにわたって育まれた深い友情。2022年の秋冬シーズンに、発売されたコラボレーション10周年を祝うカプセルコレクションのお披露目を兼ねて来日したアンナ・アホネンとカタリーナ・ランバーグの2人に話を訊いた。
〈ジョンローレンスサリバン〉の10年の軌跡。デザインデュオ、アホネン&ランバーグが語る、デザイナー柳川荒士とのコラボレーション
──〈ジョンローレンスサリバン(以下JLS)〉とは、グラフィックのプリントやロゴ、ショーのインビテーションなど、さまざまなアートワークで一緒に仕事をされているんですよね。お2人は当初からこんなに長い期間の共同作業になると予想していましたか?
アンナ・アホネン(以下A):いいえ、まったく想像していませんでした。毎シーズン、すごく自然に続いていつの間にかここまで経っていたという感じです。
カタリーナ・ランバーグ(以下K):正確には2020年で10周年だったので、もう10年とちょっと。最初の出会いも純粋にクライアントとしてだったので、考えてもいなかったです。ファッションの場合、通常2、3年一緒に仕事をするとディレクターを変えるのが当たり前ですから。でもアラシ(柳川荒士)とは知り合ううちに近しい友人になって。この先、同じように仕事を続けていかなかったとしても、何かしらずっと一緒にやっていくだろうなと感じていました。アラシもそういう関係性の変化に気づいていたと思います。
──最初に出会ったときのことは覚えていますか?
K:そう、それをずっと思い出そうとしていて(笑)。互いのことを知ったのはパリではなくて……実際に会う前に一緒に仕事をしたことがあったんです。
A:それでパリで最初に顔を合わせて。私たちが東京でエキシビションをやった(2013年)ときにも来てくれました。
2人が最初に手がけたのが2010年の〈THE SULLIVANS〉のプロジェクト。数名のアーティストが選ばれ、柳川荒士が伝えたテーマに合わせて作品を制作。アホネン&ランバーグのアートワークは柳川に強烈なインパクトを与え、今でもその作品をプリントしてアトリエに飾っているという。これをきっかけに、2011年より〈JLS〉とのコラボレーションが始まった。
K:もう3人ともどんな言葉だったかはっきり覚えてないんですけど(笑)、究極の愛を象徴する3つのキーワードを与えられて制作しました。日本人が描いたとある絵を友人のパーティで偶然目にして、それに衝撃を受けて生まれた作品なんです。ブロッコリーと名づけた美しいアートワークですが、実際には臓器が描いてあって。
A:絵を見ながら2人で愛について語り合って、そこから作り上げたもの。アラシがそれを見てとても驚いていたんですよね。
──荒士さんとのクリエイティブワークはいつもそんな風に、キーワードをベースに作り上げていくアプローチなんですか?
A:そうですね。最初に彼が次のコレクションのムードボードを見せてアイデアについて語ってくれて。会えるチャンスがあるときは、一緒にそろって話し合ったりしました。ムードボードを目にしながら、会話を通して探っていく感じでしょうか。
K:時にはそれがコレクションテーマのようなキーワードだったり。この秋冬は「デカダンス」がテーマでしたが、そんな風にひと言の場合もあれば、まったく言葉もなくて、これがすべての洋服だから(と目の前に広げて)「自由にやってみて」とか(笑)。そこから2人でインスピレーションを膨らませてリサーチを繰り返し、アイデアを形にしていく。アラシは必ずそれを「いいね」と認めてくれるんです。かなり深読みしたものでも、それを汲み取って「これだね」と言ってくれる。その意味では本当にこれまでのベストクライアントだし、アーティストとしての彼の理解にやりがいを感じます。
A:そう、私たちとアラシは本当の意味で理解し合えているなと思います。
K:互いへの理解と信頼、そして尊敬の念ですね。
カプセルコレクションでは、過去作品から特別編集したアーカイブプリントのアイテムと、新たに制作されたグラフィックを使用したオリジナルアイテムが発表された。このコレクションもこれまで同様、2人と柳川との対話から生まれたものだ。
K:10周年のコレクションを考えるにあたって、アラシとは秋冬のテーマの「デカダンス」にもつながるといいねと話をしました。アーカイブからプリントを選ぶ提案をもらって、彼の気に入っている作品をテーマに合わせた色に変えてみようということになりました。
A:あとは新しいプリントを2つ制作して。
K:「デカダンス」を頭に描きながら、今の感性を取り入れたものです。
──Tシャツやトートバッグに使われているグラフィックですよね。これは何をとらえたものなんですか?
K:ひとつは道で死んでいた鳥の写真です。羽とかオーガニックなものを取り上げたかったんですが、あえてひと目ではわからないように仕上げてあります。もう1点は嵐の前の浜辺。ストームは最近の世情を象徴する言葉でもあるし、嵐はアラシの名前とも音が共通するのでかけ合わせています。
──どちらもご出身のフィンランドの情景なんですよね。お2人はそもそもどういう経緯で一緒にデザインスタジオを始めることに?
A:2人ともヘルシンキの同じ学校の出身なんですが、本当に出会ったのはパリでの学生時代。一緒に勉強していたときに、たまたまあるプロジェクトを2人で手がけることになって。新しいファッションブランドのロゴデザインの仕事だったんですが、2人でやってみたら本当に楽しくて。それが始まりで、一年ほど経ってから会社を立ち上げました。
K:2人でやっているうちにアイデアが閃いて、それで「こうしてみよう」「ああやってみよう」と話し合っているうちに、ごく自然な流れでこういう形になった感じです。
──2人でデザインワークを? 明確な役割分担などあるのでしょうか。
K:〈JLS〉でのやり方と同じです。最初にお互いにブレインストーミングして、リサーチをする。リサーチはそれぞれが担当することもあるんですが、必ず2人で深く対話しながら進めています。
A:リサーチしてどのアイデアを試すか話し合って。それぞれの得意分野はわかっているので、それを有効活用しながらですね。
K:途中で行き詰まっても、もう1人が「私、アイデアあるからやってみよう」と試してみたり、そこからまた何かが思い浮かんだり。ひとつの発想からピラミッドみたいに裾野が広がっていくイメージです。
──クリエイティブ面でどういうところがお互いの魅力だと感じていますか?
A:すべてにおいて異なる視点を持っているところでしょうか。いつもその創造性豊かな発見に驚かされます。
K:そうですね、まったく違うものを持った2人だと思うんです。そこが2人の仕事により幅広い価値を与えているし、リスペクトしています。
──お2人はクラシックなものをベースにしつつ、そこにモダンなエッジを加えていくというデザインアプローチを大切にされていますよね。それは〈JLS〉の世界観とも共通する点ですか?
A:そうですね。タイムレスなものに捻りを加えていくという手法は、お互いに深く理解しているところだと思います。
K:本質的に、そしてクオリティという点でも、クラシックなものを尊重するのは同じですね。私たちのデザインは、背景に純粋さを持ちながら、同時にそこに多くの驚きがあるべきだと考えています。すべてのプロセスを通して、デザインにエッジを持たせていくやり方。一見、クラシックに映るロゴでも、注意深く見るとディテールには手描きの要素があったり、完成形ではわからなくてもクライアントと私たちの間ではすごく深くまで掘り下げた視点があったり。表面的に見るだけではわからないことが多いですね。
──それがおそらく、クリエイターとして荒士さんと共有する美意識ですよね。
K:そうだと思います。私たちもアラシも、自分たちのヴィジョンを明確に持っていて、それを真から追い求めている。あっちやこっちへとトレンドに流されて、共通言語を持たなくなるのではなく。
A:お互いにリスペクトし合っていて、同じ原理や規律を持っているんですよね。
──10年を振り返り、何か大きな変化はありましたか? そして、この先の10年に期待することは?
K:私たちもそれぞれ成長して、個人的にもプロフェッショナルとしても10年で大きく変化はしてきました。
A:だけど、それでも全員が今も同じ道に立っていることが素晴らしいですよね。
K:ちょうど、2023年が〈JLS〉の20周年。だから、おそらくブランドの新しいフェーズの始まりなんだろうなという気がしています。いろんな計画もあるので心からワクワクしてます。これからも今まで通り、コラボレーションを続けていきたいですし、〈JLS〉とスペシャルなプロジェクトを手がけられたらと願っています。日本にもまたすぐに来たいですね。
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Ahonen & Lamberg
フィンランド人デザイナーのアンナ・アホネン(右)とカタリーナ・ランバーグ(左)が2006年に立ち上げた、パリ拠点の複合的なデザインスタジオ。アートディレクション、クリエイティブコンサルティング、グラフィックデザインを中心に、グローバル企業から、ヘルシンキ発の雑誌『SSAW』誌やラグジュアリーブランド、デザイナー、若手アーティストまで幅広いクライアントを持つ。