ときどき、こんな声を聞きます。
「玄米を炊いてみたいけれど、つい尻込みしてしまう」
関心はあるけれど、ふっくら炊くのはむずかしそう、という思い込み。私にしても、子育て中だった三十代、玄米の上手な炊きかたを先輩に訊くと〝だったら圧力鍋が必要〟と熱心に勧められ、気持ちが萎えた経験がある。まあ確かにそうかもしれないけれど、新たな道具を買わなきゃいけないのは面倒だな、と頓挫してしまった。いまなら、高性能の炊飯器はスイッチポンで玄米モードに変わるかもしれないけれど。
脱穀しただけ、外皮もまるごとついている玄米は、ミネラルやビタミン、食物繊維をたっぷり含んでいるスーパーフードだから、本当は気軽に食べたい。「もちもち、ふっくら」の呪縛につかまりがち。
玄米とのつき合いを気楽にするための、いい手がある。
お粥を炊いてみませんか。
私は週に一度、玄米のお粥を炊いているのだが、技はいらない、厚手の鍋と一時間があればもうそれで。なのに、おいしくて癖になる。
いつもこんなふうに炊いている。
①玄米1/2カップをボウルに入れ、たっぷりの水にひと晩浸す。このとき、玄米の表面に傷をつける勢いで、がしがしこすり合わせておく。
②翌日、厚手の鍋に玄米、玄米の7〜8倍の水を入れてことこと煮る。
えー 「ひと晩浸す」手間が必要なの?と思われたでしょう。でも、こればっかりはとても大事。外皮にがっちり守られている玄米をあらかじめ懐柔しておく必要がある。ただ水に浸しておくだけ、なんの手間もかからないのだから、ここは割り切ってほしい。
厚手の鍋に玄米と水を入れ、火にかける。沸騰してきたら火を弱め、細い火にしてゆっくり煮るのだけれど、茶褐色の玄米ひと粒ひと粒がゆらゆら踊り始める光景はとても美しい。あれほど硬かった玄米が、しだいに柔らかさを得て花開いてゆく。ただ、煮えてくると鍋底が焦げやすくなるので、ときどき鍋底から静かに混ぜてください。
さあ、一時間ほど経った。たっぷり、玄米粥のできあがり。熱々を匙で口に運ぶと、ぷちぷち、ふくふく。「もっちり、ふっくら」とは別もののおいしさが玄米との距離をぐんと狭めてくれるはず。
熱い玄米粥を匙ですくい、口に運ぶ。あちちっ!過激に熱い。穀物がめいっぱい取り込んだ熱に、身体が温まり始める。ぷちぷち、ぷちぷち、リズミカルな歯ごたえが楽しくて、自分で炊いてよかったな、と満足感に充たされる。自己満足とは違う、ほんとうの充足。
三月は、冬のあいだ、身体のなかに溜まったものを排出するとき。お粥の軽さに助けてもらって、春への船出に向かってみませんか。
少なく食べるのも自分の身体の守りかたの大事な手立てだと、この時期にはいつも思う。