「定番」はパワーワード。定番のアイテムや組み合わせにはスタンダードな魅力があるし、困ったときや迷ったとき、よしきた!と助けてくれたりする。冒険がないから面白みに欠けるのでは、という意見もあるでしょう。でも、シンプルなデニムとTシャツとスニーカーの定番の組み合わせでも、Tシャツのサイズ感、デニムの色と形が少し違うだけでまったく別のニュアンスになる。「定番」は飽きのこないお定まりを指すのではなく、むしろ、着るひとの雰囲気を際立たせるものなのだろう。
料理にもそれぞれの定番がある。材料も名前もありきたりだけれど、何度も繰り返しつくるうち、いつのまにか自分の味になっている。そんな料理が誰にでもあるはず。
私の冬場の定番のひとつは、白菜と豚ばら肉の重ね煮です。なんてことのない、見た目も地味なおそうざい。あらためて指折って数えると、もう二十年以上つくり続けている。簡単、安い、火にかけるだけ、もちろんおいしい……いろんな理由があるけれど、大事なのはこれ→白菜と豚肉を重ねるときがオモシロイ。調味料をたら〜っと適当に回しかけるときがウレシイ。小学生でもつくれるよ、といつも思う。
鍋の火がすべてを引き受けてくれる料理です。
【材料】
白菜1/4個
豚ばら肉200g
しょうが(せん切り)3片分
醤油大さじ2〜
酒大さじ2
みりん大さじ1
ごま油大さじ1
塩適宜
水3/4カップ
【つくり方】
①白菜を洗い、縦に細長く裂く。
②豚ばら肉を10cmくらいの長さに切る。
③鍋の底に長いままの白菜を敷き詰め、豚肉を平たく広げてのせ、白菜→豚肉の順に層をつくって重ねる。
④しょうがのせん切りを散らし、上から調味料をすべて回しかけ、水を加えて火にかける。
⑤ふたをして、そのまま中火で20〜30分くつくつ煮る。
何もしなくていいの?
心配になるかもしれません。では、途中でちょっとだけふたを開けて、鍋のなかを覗いてみてください。
アラまあ!
滲み出た白菜の水分と醤油や酒やみりんやごま油が混じり合い、とても芳しい。スプーンですくって味見すると、上品な金色の汁のなかに豚肉のうまみが詰まっている。必要なら塩を加え、好みの味かげんに整えます。そのときどき、白菜から染み出る水分が違うから。
くたくたの白菜と豚肉を長いまますくい、こんもりと器に盛る。ただ重ねて火にかけただけなのに、いつもの味、いつもの見た目、いつものおいしさ。とても安心する。そうよ、これが冬場の私の定番なの。