歌舞伎の舞踊のひとつに「変化物」と呼ばれる演目がある。
ひとりの俳優が演じるのが原則で、早替わりしたり衣裳を引き抜いたりしながら小品を連続して演じ分けるというもの。そもそも江戸の文化文政期に大流行し、五変化や七変化をこなせるのは名優の証でもあるとされた。だれにでも、変身願望はあるもの。歌舞伎の世界でなくても、鮮やかな変身ぶりにはわくわくしますよね。
こんな話を持ち出したくなったのは、食材のなかにも巧みな変身っぷりをみせる名優はたくさんいると思うから。そのうちのふたつ、白菜キムチとじゃがいもの意外なコラボレーションを紹介したい。
私は、白菜キムチを味噌汁に入れることがあります。白菜と油揚げの味噌汁もいいけれど、今朝はぴりっと締まった刺激がほしい、なんていうとき。すると、白菜の甘さが引き出され、ピリ辛風味と味噌のこくが混じり合って食欲増進。気が向いたら、いっぺん試してみてほしい。炒めたり、煮たり、火を入れた白菜キムチのポテンシャルはすばらしい。
じゃがいもの自在な変身ぶりはいまさら言うまでもないけれど、すりおろしたじゃがいもにも驚かされる。みぞれのように細かくなったじゃがいもからでんぷんが全面に押しだされ、火を入れるともちもち、むっちり、お餅のような食感になる。ついさっきまでゴツいカタマリだったじゃがいもなのに、いきなりの方向転換に意表を突かれてしまう。
さあ、このふたつを合わせてみましょう。
混ぜるだけ。カリッと焼くだけ。
【材料】
白菜キムチ1カップ分
じゃがいも2個
酒小さじ1
ごま油大さじ2
煎りごま、七味唐辛子など適宜
【つくり方】
①白菜キムチを粗いざく切りにする。
②じゃがいもの皮をむき、すりおろす。
③ボウルに1と2、酒を加えてよく混ぜ、タネをつくる。
④フライパンを熱してごま油を入れ、4等分したタネを入れて丸く均す。
⑤片面がこんがり焼けたら裏返し、ふたをして焼く。
⑥皿に移し、煎りごま、七味唐辛子をふる(ポン酢をかけてもおいしい)。
ピッツアのように大きな円盤状に広げて焼いてもいいのですが、私はいつも小さな小判型にして焼く。とろんと柔らかいので、小さめに焼くとヘラで裏返しやすく崩れにくい、というのがその理由。でも、好みによっていろいろ試してみてください。片面に豚肉を広げてお好み焼き風にしてもいいし、チーズを入れればガレットみたいな感じ。
シンプルな料理が五変化、七変化……意外な顔を見せるのが、また楽しくて。