日々スポットライトを浴びながらも、GINZAの連載エッセイで綴っているように、心の内面を丁寧にすくうまっすぐさの持ち主でもある家入レオさん。2月15日に最新アルバム『Naked』がリリースされました。実は家入さんが音楽への自信を一度失ってから、“まっさらな自分”に原点回帰するまでの数年間が投影された、特別な一枚だと話します。
家入レオが“Naked”な自分に原点回帰して気づいたセルフラブの大切さ「毒も見方次第で“あなたらしさ”になるから」

──2022年にはデビュー10周年を迎え、ベストアルバム『10th Anniversary Best』を出されたり、ライブもたくさんされたりしました。去年をどう振り返りますか?
そうですね、うーん……いろんなことを決意した年だったなと思います。3年前に「未完成」という曲をリリースして、インタビューしていただいたときは、まだもがいている最中で。
──よく覚えています。
クオーター・ライフ・クライシス(*人生の4分の1を過ぎた20代後半〜30代前半の頃に訪れがちな、幸福の低迷期を表す言葉)の渦中にいました。ずっと気持ちがくすぶっていて真っ暗だった中に、一筋の光が差し込んできて。悩んで、悩んで、「でもやっぱり私はこの道で生きる」と決めた2022年でした。
──ということは、「この道で生きていかない」可能性もあった?
あったと思います。音楽のことが大好きだからこそ、向いてないんじゃないかと怖くなったり。けど、そのときどきで必要な気持ちの揺れだった気はしていて。私は自分の葛藤や矛盾を見せることも、音楽活動の一環だと考えているんです。そのことによって、応援してくださっている方を不安にさせた部分も正直あると思います。でも、葛藤を押し殺しながら折り合いをつける生き方は私にはできない。ファンの方が一番「もしかして無理して笑ってる?」と気づくから、ごまかしは通用しないですし。「家入レオって人間くさいんだな」って言われながら音楽を続けることが私の生きる道なのかなって、今は思ってます。その中でできたのが、今回の『Naked』というアルバムなんです。
──裸の/素の/まっさらな状態を意味する、「Naked」というタイトルをつけたのはどうしてですか?
私は、中学校の授業中に誰にも言えない気持ちを綴った曲「サブリナ」で17歳の時にデビューしたんですけど、それを聴いて「私も同じこと考えてました」って言ってくださる方がたくさんいて。そこから「聴いてくださる方の期待に応えたい」という想いが強くなるにつれ、自分にとっての音楽が、本音を言えていた場所から人の想いに応えたい場所になってきてしまって。でもいろんな経験を経て、“人を大事にすること=自分を大事にすること”だってやっと気づいたんです。自分に正直になればなるほど、声を上げられていない人の代弁につながるというか。つまり『Naked』は「サブリナ」という原点への回帰であり、新境地でもある気がします。
──収録された12曲は、いつ書いたものなんですか?
アルバム前作『DUO』をリリースした2019年以降、書きためてきました。だから「未完成」より前に生まれた曲もありました。でも自信が持てなくて、なかなかリリースに踏みきれなかった。そういう状態から、改めて音楽への決意を固めるまでの過程がすべて詰まっているから、とても濃いアルバムになっていると思います。
──リリースまで踏みきれなかった曲ってどれになるんですか?
「Winter」 「悩みたいだけ」もそうだし、「嘘つき」もずっとストックの中にあって。でもブラッシュアップしていく過程で、どんどん「みんなに届けたい」という気持ちに変わってきた。『Naked』に入っている曲は、実は歌詞先行でもメロディ先行でもなくて、“想い先行”で作っているんです。まず私が曲ごとにプロット、というか短編小説を書いて、それを作曲家の方に読んでいただいて、トラックを作っていただき、一緒にスタジオに入ってメロディーを作って、そのメロディーに元の短編小説をふまえた歌詞を書くっていう、制作スタイルでした。
──たとえば「愛は鎖じゃない」の一人称は「俺」ですが、その背景にも短編小説があるってことですよね。
ゴリゴリにありました(笑)。今までの曲作りはどこかノンフィクションでしたが、今回は、きっかけは自分の人生の中にありつつも、その出来事を曲の中でもっと面白い方に転がしていこう、というか。シンプルに創作を楽しむフェーズに入っていきました。「愛は鎖じゃない」を書いたきっかけとしては、日々サブスクのトップチャートをチェックしていると、ランクインしているラブソングのほとんどが「か弱い女性が不誠実な男性に、徹底的に振り回されている」構図を、「男性アーティストが歌っている」曲で、それがちょっと悔しかったんです。ヒットするってことは、そういう恋愛観が無意識に普及しているわけだから。それなら私は逆にその不誠実な男性になりきってみようって。
──〈女の子ってなんでこんな彼女になりたがるの? めんどくさい!〉〈でも会ってるときは1番好きだって思ってる〉などと、アメとムチがすごい歌詞でした(笑)。
友だちから恋愛相談を受けたとして、どんなに「そんな人とは別れた方がいい」と伝えても、本人はなかなか好きな気持ちを断ち切れないんですよね。次からは「まず、この『愛は鎖じゃない』という曲を聴いていただいて、この主人公についてどう思いますか?」「ヤバいと思います」「だよね。今あなたがお付き合いしている相手も同じじゃない?」っていう諭し方をしたいです(笑)。でもそういう男性ってやっぱりどこか魅力があるから、吸い寄せられちゃうじゃないですか。私もこの曲を書きながら、「この人、彼氏にはしたくないけど、友だちになったら面白そうかも」なんて思いながら、もっとハチャメチャにしよう!とどんどん筆が乗ってきて。自己セラピーの意味合いの制作だけではなく、そういう創作的な書き方をできるようになったのは大きいことかもしれないです。
──あと印象的なのが、ロックナンバー「I don’t like you」。サビの〈恋愛がすべてじゃないでしょ なんなら新曲書いていたい〉という家入さんご自身を思わせる歌詞がありますが、一般的な表現に言い換えなかったのはなぜですか?
「幸せの形は自分で決めていい」って、はっきり伝えたかったんです。ここ何年かで「彼氏いる?」「結婚してる?」って聞かれる機会が増えていて、「今彼氏いないんだよね」「結婚してないよ」って答えると、相手がちょっと困った顔をするんですけど、それが理解できなくて。いや、分かるんですよ、「気まずい……!」って思う気持ちも。恋愛も楽しいし、好きな人がいるときにしか出せないパワーもある。だけど、恋愛だけが人生じゃないから。
最近、Z世代の80%に恋人がいないっていうネットニュースを読んだんですが、「僕にはゲームがある」とか「私には本がある」って楽しく生きてたらそれで正解だよねって思うし、私の場合は「新曲書いてたい」だったし。すべての生き方を肯定したくて書いた曲です。
──前回だったら常田大希さんや永井聖一さんなど、家入さんのアルバムでは誰とコラボするのかもいつも楽しみです。今回はマイカ・ルブテさんが参加していますが、どんな経緯で組んだんですか? いい意味で意外な組み合わせでした。
ですよね。お互いに歌っている曲のイメージも違うし。もともと共通の知人がいて、3人で遊ぼうってことになり、プライベートで会ったのが最初で。マイカさんのスタジオに行ったときに、「実は学生のときに、スカーンって抜けるような声の子に歌ってもらえたらいいなと思って作ったメロディーがある」って聴かせてもらったのが、今回の「Hikari」という曲。その場で「私これ歌いたい!」とアプローチして、やっと念願かなってリリースされました。
──「Hikari」をピアノとギターで、シンプルなアレンジにした理由は?
〈本当に大事なもの以外 手放したって心配ないよ〉っていう歌詞が、この曲で伝えたいことのすべてで、ごくシンプルな構成の方が届きやすいんじゃないかなって。私は2022年、手放すことの幸せをすごく学んだんです。自分が何を幸せと思うかを知るって大事だなと思います。
──こうしてインタビューをしたり、GINZAの連載エッセイを読んだりすると、家入さんは凛としてまっすぐな方という印象があります。でも、10代からのロックでとんがったイメージもあるし、曲においてはひねくれたような激しい一面が見えることも。ご自身の中にあるとんがった部分とは、どう向き合っていますか?
そもそも私、自分ではめちゃめちゃ性格悪いと思っていて。
──自分で性格悪いって言う人は悪くないです(笑)。
いや、なんて言ったらいいのかな、こじらせてはいるというか。でも「家入、こじらせてるな」って言われるアルバムって、ほめ言葉だと思うので。それだけ正直な生き方をしているってことだから。最近、岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』という本を読み返したんです。太郎さんも「自他に甘えるな」みたいなスタンスで生きていらっしゃった方で。最初に読んだのが10代のときで、当時は正直、内容の半分も理解していなかったんですけど、今はもう一つ一つの言葉が心に刺さりすぎて。大事なことを思い出させてくれる1冊でした。
──「毒を持つ」って覚悟がいりますよね。
覚悟だと思う。だって毒って、下手したら相手を殺しますからね。でもそれを毒と見るのか、“あなたらしさ”と見るのかは、相手次第な気がしていて。一人一人、生まれ持っての変えられない性格ってあると思うんです。生きる上でそれを隠す術も身につけていくんだけど、ずっと嘘はつき続けられないから、結局は自分っていうものに向き合わないといけない瞬間がやってくる。それに、「これが私です」って堂々といる方が、相手も適度な距離感で「ちょっと遠慮しときまーす……」って引き返しやすいっていうか(笑)。あるいは、「それはあなたにしかない個性だからもっと知りたい」と近づいてくることもあるかもしれないし……と、こんなふうに、一般的に正しいとされていることに疑問を持つタイプではあるかもしれないです。
──そこがファンの方たちから支持されているのでは?
どうでしょう。今まではそれをちゃんと音楽に落とし込めてなかったのかもしれないなって、『Naked』を書き終わったときに思いました。「私ってこういう風に思ってたんだ!」という本音をより反映できたから、すごく好きな一枚になりました。
家入レオ New Album 『Naked』
2023年2月15日発売
◆初回限定盤 A / CD+DVD / VIZL-2146 / ¥5,500(税込)
◆初回限定盤 B / CD+DVD / VIZL-2147 / ¥4,620(税込)
◆通常盤 / CD / VICL-65773 / ¥3,300(税込)
◆ビクターオンラインストア限定盤 / CD+GOODS /
NZS-905 / ¥4,180(税込) ※10インチ紙ジャケット仕様
家入レオ TOUR 2023 〜NOT ALONE〜
5/19(金)<千葉>柏PALOOZA
5/25(木)<静岡>Live House 浜松窓枠
5/27(土)<香川>高松オリーブホール
5/29(月)<京都>京都 磔磔
6/7(水)<宮城>仙台 darwin
6/9(金)<北海道>cube garden
6/17(土)<福岡>DRUM LOGOS
6/18(日)<広島>広島 CLUB QUATTRO
6/22(木)<大阪>梅田 CLUB QUATTRO
6/23(金)<愛知>名古屋 CLUB QUATTRO
6/30(金)<東京>Shibuya WWW X
家入レオ TOUR 2023 〜NAKED〜
10/7(土)<大阪>Zepp Namba(OSAKA)
10/8(日)<愛知>Zepp Nagoya
10/12(木)<福岡>Zepp Fukuoka
10/21(土)<宮城>仙台GIGS
10/27(金)<東京>Zepp Haneda(TOKYO)
11/3(金・祝)<香川>高松 festhalle
11/4(土)<広島>BLUE LIVE 広島
11/11(土)<神奈川>KT Zepp Yokohama
11/18(土)<北海道>サッポロファクトリーホール
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家入レオ
2022年2月にはデビュー10周年を記念して「10th Anniversary Live at 東京ガーデンシアター」を開催。
2023年2月15日にはニューアルバム『Naked』をリリース。収録されている「嘘つき」はWOWOWオリジナルアニメ「火狩りの王」のオープニングテーマ。 leo-ieiri.com
@leoieiri