さまざまなフィールドで活躍する、新進気鋭のクリエイターにインタビュー。その独創的な発想力と、人を惹きつける魅力とは?創造の源に迫る。
アーティスト、西條 茜にインタビュー
シーンを塗り替える表現者たちvol.01
西條 茜
アーティスト
陶オブジェを介した
自他の身体性の重なりを表したい

サキソフォンの朝顔管がいくつもくっついたじょうごのような形や、棺や井戸枠を思わせる直方体。西條茜さんの作品シリーズ[Phantom Body]はすべて陶でできていて、〝穴〟が開いていることが特徴だ。そもそも芸術大学で陶芸を専攻したのはなぜなのだろう?
「大学1回生の時に染織や漆芸などさまざまな工芸をやってみて、一番しっくりきたのが陶芸だったんです。道具を介さずに直接手で素材に触れる安心感があり、創作の初期衝動を反映しやすいと思って。工芸の中でも特に自分の予想を超えた結果が現れたり、コントロールできない部分がいちばん多いのも魅力だと感じました」
陶芸でまったく新しい表現に挑んだ一連のオブジェは現在、森美術館で開催中の企画展『私たちのエコロジー: 地球という惑星を生きるために』(〜2024年3月31日)の中でも異彩を放っている。パフォーマーが作品に近づき穴から息を吹き込むと、通気孔を風が通るような音がする。時にはひとつの作品の複数の穴から同時に2、3人が息を吹き、音が共鳴する……そんな記録映像も傍に展示された。
焼いている間に窯の中で収縮したり、釉薬の色が変化したり。やきものの制作には人知を超えた力が働いているように感じることもあるという。ところで陶芸といえばやはり、いちばん身近なのは茶碗や食器だと思うが。
「2回生の時にみんなで器を作って販売する企画があったのですが、茶碗を制作しながら友達と『自分の手でこしらえたものが他人の口に触れるのってなんかエロいよね?』なんて話して。食器には安全性も必要だし、ある種の責任を負わなければならないから、いまいち自由になれない。それで自分は彫刻の方へ進もうと決めました」
ボリュームのある立体オブジェに取り組んでいたが─。
「やきものはどんな形状にせよ、塊で作ると焼いた時に破裂してしまう可能性が高いので、基本的には中を空洞にします。成形している最中に覗き込んだら、医療関係の仕事をしていた父が以前見せてくれた内視鏡の映像を思い出しました。陶器の内側は、まるで人間の内臓みたいだなって。そこから[Phantom Body]が生まれました」
制作でフランスに短期間滞在した際のリサーチもつながっているという。「16世紀にベルナール・パリッシーという陶工がやきもので人工洞窟を作り、風が吹くと音が鳴るものもあったそうです。人間の体内も洞窟に似ているから、造形に息を吹き込んで音を響かせてはどうかという発想に至りました」
制作中、世の中はコロナ禍に見舞われた。人々がマスクを着用し接触を避けるようになった時世にあえてこのシリーズを作ることで、抑圧された内面をさらけ出し、時代に寄り添うものになると考えた。
「私の作品は『綺麗なのか汚いのかわからない』とたまに人から言われますが、どこかマージナルなものでありたい。自と他、身体と物質、工芸と美術など、その狭間にこそリアリティがあるような気がしています」
[Phantom Body]は生命体であり、鑑賞者の幻の身体なのかもしれない。くぼみに頰を押しつけたり、開口部に唇を寄せたり、体を預けてしなだれかかる時、その人の身体は作品と一体化する。指の跡が残る陶の表面に触れる時、作り手とも交わっている。いろんな人の身体性が幾層にも重なるところに面白さがある。
「これまでは息や声がひとつのキーワードでしたが、今後は〝運搬〟にもフォーカスしてみようと企んでいます。私の作品は非常に重いので、どのように身体を使って持ち上げたらよいか、いつも考えながら作業しています。そんな経験から、パフォーマーが作品を移動させるうちに身体が密着し同体化していくようなパフォーマンスを思案中です。大江健三郎の短編小説『運搬』にもインスパイアされました」
2024年3月から1年間、グランフロント大阪に設置される予定の西條さんの作品は、穴を通じて水が循環するという。人と人のつながりや往来、息や声など存在のよすがが溶け合っては離れていく流動性など、社会のさまざまな現象や希求を陶造形によって想い起こさせるアーティストなのだ。
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西條 茜
さいじょう・あかね>> 1989年兵庫県生まれ。京都市立芸術大学美術学部工芸科陶磁器専攻卒業。2023年、京都市芸術新人賞受賞。22年第1回MIMOCA EYEで大賞受賞。その副賞で25年に丸亀市猪熊弦一郎現代美術館で個展開催予定。
Text: Mari Matsubara Cooperation: Hiroki Yamamoto