さまざまなフィールドで活躍する、新進気鋭のクリエイターにインタビュー。その独創的な発想力と、人を惹きつける魅力とは?創造の源に迫る。
注目の映像ディレクター鳥畑恵美莉がいつか撮りたい作品とは
シーンを塗り替える表現者たちvol.05
鳥畑恵美莉
映像ディレクター
みんなの意見を引き出す
〝発起人〟という感じ
緻密な計算に基づいた登場人物の生き生きとした動き。歌詞の雰囲気とマッチする美術デザイン、絶妙な光の加減……。ロックやヒップホップなど、多彩な音楽ジャンルのMVを発表する鳥畑恵美莉さんは、一本の映画を思わせる、厚みのあるストーリーを盛り込んだ映像を通して、楽曲の持つ魅力を最大限に伝える。
「大学時代にジーン・ケリーやフレッド・アステアといったスターたちが出演する50〜60年代のミュージカル映画に開眼しました。細やかに描かれる身体美や心情描写に感銘を受けたんです。アート系の大学に通っていたわけではなかったのですが、その後、本格的に映像の道を志しました」
2023年5月に公開された緑黄色社会「うそつき」はクラシカルなムードの中での流麗な振り付けが話題に。
「描いていたイメージを実現できるロケーションを見つけられたのが大きかったです。背景画を後ろに置くとスペースが限られるので、本当に動きのある長回しは撮れない。だから、広々とした空間で制限の少ない『ホテルスプリングス幕張』を見つけたときは、これだ!と思って。カメラワークや人物の動きの魅力を存分に引き出せましたし、ロケ地のレトロさを生かして、室内の絵作りもとことん可愛く、プリンセスの部屋みたいにしよう!って、意気込みました」
他にも、the engyの「Lay me down」など、以前からミュージカルの手法を取り入れたMV制作に挑戦してきた。画面の四方八方に被写体を配置し、ディテールまで作り込むこだわりが見事だ。それは、主役と関係ないところにまで、とんでもない数の人を入れて撮ることを得意とした、映画監督兼コレオグラファーであるバスビー・バークレーの作品の影響が大きいという。
一方で、常に三、四本の案件を同時に進行しているため、自身の中の膨大なストックから、いかにひらめきを引き出すかも重要。普段からさまざまなインスピレーションを大切にしている。
「ペトラ・コリンズの映像や写真は、強いのに可愛さがあってユニーク。ルーク・エドワード・ホールも独特な視点がありハマっています。あと、サウンドから着想を得る人もいますが、私は歌詞をしっかり読み込むことでアイデアを思いつくタイプなんです。何を歌っているかを丁寧に聴き込み、ストーリーを練っていきます」
構想が決まってからも、毎回苦労するのが「やりたいこと」と「できること」との兼ね合い。当然だが製作費は限りがあるので、スタッフの意見を引き出しながら多数の案を検討してぎりぎりまで粘る。それでも「もっとできたはず」と、反省の繰り返しだという。
「最近はミュージシャン側から『こういう方向性で撮りたい』とオーダーをいただいたり、一緒に話し合いながら演出を決めていくケースが増えてきました。たとえばLANAさんの『L7 Blues』はギャルの勢いやスピード感がテーマだったので、合うかなと思ってマイリー・サイラス主演の海外ドラマ『ハンナ・モンタナ』のキラキラした世界観を提案しました。即興でダンスシーンを入れたのは彼女のアイデア。だから、どのMVにしろ『私が撮りました』という気持ちはなくて、みんなで撮っているという感じなんですよ」
その〝みんな〟には、カメラマンやプロデューサーのほかに、美術、衣装、照明、ロケーションなどを担うたくさんのスタッフが含まれている。指揮を執っていく中で心がけていることは?
「常に楽しい雰囲気を作って、どんどん意見を言い合えるようにしていますね。とにかくどんなテーマであろうと実現できる物づくりのプロたちが集まっているので、私は単なる〝発起人〟という感じ。だから、よい意味で主張がぶつかることも多いです。その撮り方は面白くなくない?とか、こういう動きの方が曲に合ってるよ!とか。全員でああでもない、こうでもないと言い合って、毎日が文化祭みたい(笑)」
優しい笑顔で場を和ませる、親しみやすいキャラクターが個性豊かなメンバーをまとめていける理由なのだろう。 「大がかりなセットを組んで撮影するのが夢。大勢の役者が歌い踊る本格的なミュージカル映画を撮りたいです」
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鳥畑恵美莉
とりはた・えみり>> 1990年生まれ。映像プロダクション「SEP」所属。制作スタッフを経たのち、2021年からMVを手がけるように。ミュージカル調の作風を得意とする一方で、ストリート感のあるエッジの効いた演出までこなす。
Photo: Hikari Koki Text: Tsuyachan