さまざまなフィールドで活躍する、新進気鋭のクリエイターにインタビュー。その独創的な発想力と、人を惹きつける魅力とは?創造の源に迫る。
海外からも注目される新星グラフィックデザイナー UESATSU
シーンを塗り替える表現者たちvol.07
UESATSU
グラフィックデザイナー
色のグラデーションが作る
静かな迫力を表現できたら

「ファンタジックとか、レトロフューチャーとよく言っていただくのですが、自分では意識したことがなくて。ただ、子どものころからキラキラした服が好きで、ちょっと変わった形のものに興味を持ったりはしていました」
どんな質問にも真剣に向き合い、わかりやすい言葉を探りながら答えてくれる、グラフィックデザイナーのUESATSUさん。話す時のキラキラな瞳と、もの静かな佇まいが魅力的だ。花と花器をモチーフにしたグラフィック作品シリーズ[Imaginary Flowers]から、池田エライザのデジタルシング「META」のジャケットまで、幅広い活動で海外からも注目される25歳。
武蔵野美術大学を卒業した後、東京藝術大学大学院のデザイン専攻に在籍しながら、作家活動も続けている。水墨画作家を母に持ち、美術が身近な環境で育った。デザインに興味が湧いたのは、武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科で学ぶようになってから。
「田中一光さんや佐藤晃一さん、名誉教授だった勝井三雄さんといった巨匠デザイナーの作品に触れるうち、自分でもそういう個性的な表現ができたらな……と自主制作を始めました。最初は丸い形をテーマにしたグラフィックだけを、365日作り続けたりして。当時はイラストレーターも使えなかったので、スマホアプリでの創作です」
それから4年。多岐にわたる活動のベースは〝グラデーション〟だ。インスピレーションの元は、例えば木々の葉や空など自然界の色がうつろう様子。
「移り変わることそのものに惹かれます。今の創作はほぼデジタルですが、数年前まではアナログ。絵具と筆でグラデーションを描いていました。青い絵具で塗った上に少しずつピンクを足して、紫への諧調を作っていく。下書きもせず流れのままに進めるのですが、色の変化を見ているとぐっと引き込まれて集中できる。実際には動いていないのに、静かな迫力が感じられる、あの不思議な感覚がたまらないんです」
PCで制作する[Imaginary Flowers]も、手を動かしながら即興で作っている。色や形のイメージソースは、昔から好きだった花や花器に加え、建築やプロダクトやファッションも。画像素材を集めたマイストックから、その都度アイデアを引き出してくる。
「最近は、平面で創作したグラデーションを立体作品に変換したり、濃淡の藍で染めた和紙でアートを作ったり。さらに、頭の中にある思考や課題を視覚化するということを、深く突き詰めてみたいとも思っています」
新しい創作には貪欲で、と笑う背景には、大学の視覚伝達デザイン学科で学んだカリキュラムの存在がある。人は、かつて触れたものを通して世界を見ている──と始まるその概要文で、UESATSUさんがいつも心に留めているのが、次の一節だ。《(人は)未知のものとの出会いにおいては、直接、間接に触れることによって、自らのものにしようとする。この具体的な経験をふまえて、夢やファンタジーの世界や想像的なるものへのイメージを形成するわたしたちの存在がある》。
「自分で調べ、自分の頭でものごとを考えたうえで視覚化するというプロセスが、〝その人の表現〟や〝思考の仕方〟を育むうえでいかに大切か。そんなメッセージだと思っています。学生のころはカッコいい作品を発表できていない自分を、周囲に比べて地味なのかなと恥ずかしく思う気持ちがあったんです。
でも、いま振り返るとしみじみわかります。世の中にはすでに膨大なアイデアやデザインが存在していて、誰もが影響を受けてしまう。その中にあっても自分の表現を見つけられるのは、大学の時、思考を積み重ねる経験をさせてもらえたからなんです」
そんなUESATSUさんに、今後作りたいものをたずねたところ、「続けていきたい。続けることが一番の願いです」と、迷いのない答えが返ってきた。
「今年の亀倉雄策賞を受賞したデザイナーの岡崎智弘さんから、『続けていれば誰かが気づいてくれるし、不思議な出会いもある』と言われたことがあって、その言葉をずっと支えにしているんです。続ける場所を広げるために、コンペや創作にもたくさん挑戦したい。もっと表現できるはずだと思うから」
🗣️
UESATSU
ウエサツ>> 1998年東京都生まれ。東京藝術大学修士課程、デザイン専攻在籍中。グラデーションを用いるグラフィックが特徴。右の写真の背景は、藍染めした越前和紙を使った近作。藍の抽出度の違いで濃淡を表現。
Photo: Hikari Koki Text: Masae Wako