立場も職業も異なる4人がそれぞれの視点で見つめる「連ドラ」カルチャー。“プロ視聴者”の私的ヒストリーの奥に輝く、ドラマならではの魅力とは? 短期連載 #だからドラマが好きなんです
〈クードス〉デザイナー 工藤 司のドラマ愛
韓ドラらしい方程式の
組み合わせがいつまでも楽しい
「パリ時代、お付き合いしていた人が韓国の方でした。それで相手の母国語を勉強しようと思って、ドラマを観始めたんです」
きっかけはロマンチックだが、集中して視聴したのは「喧嘩シーン」だという。
「実践的な、会話が詰まっている場面と考えたらそうなってしまった(笑)。パリにいたのは2016年頃で、当時すでにNetflixに韓国の作品が多く出ていました。『ショッピング王ルイ』(16)や『トッケビ』(16)とか、大体は観たかも。その中の口論シーンでたくさんのフレーズを覚えて。『ポクスハルコヤ』(復讐するぞ)とか。日本語にすると物騒ですが、韓ドラには本当によく登場するんですよ」
必ずチェックするのは『涙の女王』(24)も手掛けた脚本家パク・ジウンの作品。
「彼女と俳優キム・スヒョンの組み合わせは、それを観ずして何を観るの!?というほど名作ぞろい。『星から来たあなた』(13)は、宇宙人が出てくるはちゃめちゃな話なのに、観ているうちにグッと泣けてきてしまう。韓ドラは、序盤は設定が非現実的すぎて話に入るのに時間がかかるけど、3、4話までこらえれば世界観を呑み込める(笑)。そのあとは一気に没頭してしまいます」
物語にお決まりのパターンがあるのが韓国ドラマの特徴。パク・ジウン作品も例外ではない。けれど工藤さんは、わかりやすすぎるほどに用意された定型の中に、面白さを見出しているそう。
「不幸な生い立ちの主人公と御曹司というような〝方程式〟がいくつもあって、崩れない。それでも、いつも悲しい事故やどんでん返しに驚いてしまう自分がいる(笑)。日々忙しなく働いているからこそ、『あ、こう来るな』と予想できるストーリーが楽しみやすいのだと思います。ただ、最近は方程式をアレンジする流れも出てきていて。たとえば『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』(22)では、悲劇は起こらず、ずっと明るい展開。でも主人公が自閉スペクトラム症という設定で、困難の要素はそこに置かれている。私見ですが、韓国のドラマは社会状況を反映するスピードが速い。最近は〝大人の第二の青春〟を描く作品も目立ちます。今観ている『となりのMr.パーフェクト』(24)は幼馴染同士のラブストーリーですが、主役二人は30代。リアルに共感できてうれしい。完結前なので、今後の展開も楽しみ」
『となりの〜』で相手役を務めるのはチョン・ヘイン。韓国で国民的年下彼氏とも呼ばれる人気俳優だ。工藤さんももちろんフォローしていて、出世作『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(18)は「信じられないくらい何度も観た」そう。
「(Netflix再生画面の)更新マークを押し続けた作品。年の差の恋愛がテーマで、チョン・ヘインのニコッと笑ったときの顔が本当に可愛い」
定型的なプロットや脚本家、俳優など多様な角度から韓ドラを愛でる。そこに、ファッションデザイナーならではの視点も。
「作品内での洋服の取り入れ方や見せ方が巧みだなとつい気になってしまう。ヒーローは大抵〈トム・ブラウン〉を着ているし、ヒロインのバッグも最新コレクションのもの。海外のメゾン系だけでなく、韓国若手ブランドも衣装に使われています。ドラマという媒体にどう服を関わらせるかという点に、大袈裟に言えば、国を挙げて取り組んでいるのかなと」
社会におけるドラマのポジション自体が、日本とは少し違うのかもしれない。
「『その年、私たちは』(21)という傑作があって、これは1993年生まれの脚本家が書いたものなんです。俳優やクルーも同世代で、若いクリエイターたちのエネルギーが弾ける一本。メジャーなテレビ局SBSで制作されています。日本だと、この規模でこれだけの若手起用はまだチャレンジングすぎると見なされるのではないでしょうか。音楽は『サイコだけど大丈夫』(20)や『トッケビ』でもOST監督をしていたスタッフが固めていて、挑戦的でありながら安定感もあり、素晴らしかった。また、弱々しくて陰キャなヒーローも新鮮。従来のマッチョなキャラではない、親しみを持てる人物設定も魅力の一つです」
Illustration_Yutaka Nojima Text&Edit_Motoko Kuroki