立場も職業も異なる4人がそれぞれの視点で見つめる「連ドラ」カルチャー。“プロ視聴者”の私的ヒストリーの奥に輝く、ドラマならではの魅力とは? 短期連載 #だからドラマが好きなんです
漫画家・ひうらさとるのドラマ愛
恋愛+αの物語にグッとくる
漫画にもつなげながら日々鑑賞
美人で有能な主人公が、同僚で年下のシングルファーザーと〝偽家族〟を作る……斬新で愛に満ちた展開で今夏を席巻したドラマ『西園寺さんは家事をしない』。原作者のひうらさんも、毎期大量の作品を観るドラマファン。SNSでのレビューも人気だ。
「漫画のペン入れ中は、頭の中が暇なんです。それで、ドラマをずーっと流しています。担当編集からネームのOKが出たら『これでやっとドラマを観られる!』とうれしくなる(笑)。20代の頃にいわゆる月9ブームを経験していますが、個人的には、直球の恋愛ものではないほうが好み。ひねりを足したもの、キャラクター造形がしっかりしているものに惹かれます。その意味で私が完璧だと思うのは『やまとなでしこ』(00)。松嶋菜々子さん演じる主人公はチャラチャラして見えるけど、奥には貧乏だった幼少期の悲しみがある。行動原理がキャラクターに反映されていて、さらにそれがストーリーを作っている。そして、終わり方はロマンチック。最終話で松嶋さんが『残念ながらあなたといると幸せなんです』とデレるのもツボでした!やっぱり1クールの間追うものだから、最後はきれいに終わってほしい。そこに作り手の誠実さを感じる。3カ月間その世界観に浸っていた気持ちを、次のクールへきちんと送り出してほしいので(笑)」
朝ドラには、『ゲゲゲの女房』(10)以降幾度もハマった。とりわけ推したいのは『カーネーション』(11)だと話す。
「女性が仕事で成功していく話という点も印象的ですが、尾野真千子さん演じる糸子が、妻子ある周防(綾野剛)と不倫の恋に落ちてしまう。二人が想いを告げ合うくだりは、朝ドラ史上最高の名シーン。仕事と子育て、そこに恋愛という諸々の要素がいい塩梅に合わさった傑作です」
テレビだけでなく配信系もしっかりカバー。最近のヒットは『地面師たち』(24)だ。
「まず、地面師集団の5人が、戦隊ものかのようにバランスが良い。寡黙なボスがいればおふざけキャラもいて、一人だけ女性。ヘビーな内容なのに意外とコミカルに仕上がっているのは、登場人物に愛嬌があるから。大根監督なのでギャグも盛り込まれていますが、コテコテしておらずスタイリッシュ。音楽も石野卓球さんが手掛け、とにかく豪華でおしゃれです」
その眼差しは、同じくストーリーを生み出すプロならではのもの。実際、ドラマの存在は漫画の仕事と深くつながっている。
「連続ドラマって、次回へつなげる〝引き〟がすごく考えられているんです。それが連載漫画を作る上でとても役に立つ。筋やセリフだけでなく、構図にも着目して。デビューした頃に参考にしたのは、ベタですが、噴水を挟んで男女が向かい合う場面など。ドラマって〝ながら〟で触れるメディア。映画と違って、つまらないなと思ったら別のことを始められる。そこが漫画と似ているので、ドラマの中にある〝飽きさせない工夫〟をいつも追いかけています。あとは、恋愛ものなら〝第二の男〟が出てくるタイミングを気にします。『西園寺さん〜』でいう横井さん的な人をどこでどう登場させるか、第一の男とどう対比させるかというところは恋愛ドラマから学べます」
自身の作品を原作としたものも、全く異なるメディアとして観て感嘆する。
「『西園寺さん〜』はかなり原作に沿って作っていただいていて、その分、アレンジに唸りました。私もああしたらわかりやすかった、と(苦笑)。例えば、楠見くん(松村北斗)が西園寺さん(松本若菜)から部屋を借りると決める流れ。ドラマ版では楠見くんが泣くことによって説得力がグッと増していた。スラっとした松本さんがミニモニを歌う場面は、リアルな演者さんによる実写だから叶う面白さですよね。全体の構成も、仕事や恋愛に家族愛など複数のエッセンスを上手にまとめていて。自分が原作者でなかったとしても好きになっていた作品。今回はYouTubeでの実況配信も楽しみました。やっぱり連ドラの良さって、1週間みんなで話ができるところ。考察であれ単なる感想であれ、シェアする喜びも生んでくれるものだと思います」
Illustration_Yutaka Nojima Text&Edit_Motoko Kuroki