立場も職業も異なる4人がそれぞれの視点で見つめる「連ドラ」カルチャー。“プロ視聴者”の私的ヒストリーの奥に輝く、ドラマならではの魅力とは? 短期連載 #だからドラマが好きなんです
音楽プロデューサーNight Tempoのドラマ愛
トレンディドラマを通して
時代の空気をまるごと味わう
昭和ポップスをダンス・ミュージックに再構築するNight Tempoさん。今年3月にはELAIZAをヴォーカリストに迎え、往年の名作『東京ラブストーリー』(91)の主題歌「ラブ・ストーリーは突然に」をカバー。日本のドラマにも精通し、1日19時間(!)画面の前にいることもあるほど、日々さまざまな映像作品に触れている。
韓国育ちのNight Tempoさんが幼少期を過ごしたのは、1998年の日韓共同宣言よりも前。日本文化の受容が制限されていた時代だ。日本製のコンテンツは一般に視聴されていなかったが、制作側は隣国の手法を参照していたという。
「その頃の番組の多くは、日本のテレビのフォーマットを取り入れたものでした。80年代・90年代の韓国ドラマには、トレンディドラマ的演出が盛り沢山です。雨が降って相合傘とか、抱き合う男女の周りを360度映す、とか(笑)。僕はそれが日本由来だとは知りませんでしたが、自国のテレビを観るうちに自然と日本のドラマへの親近感が育っていたのだと思います。その後、ストリーミングや衛星放送で視聴ができるようになり、『電車男』(05)や『きみはペット』(03)などを観ました。トレンディドラマを観るようになったのは、昭和のアイドルを好きになったから。当時の日本のリアルな雰囲気をもっと知りたいなと思い、それならドラマだと考えました。VHSデッキを持っていたので、『同・級・生』(89)の1話・2話はビデオテープで視聴。寂しい気持ちの描き方が秀逸で切なくなりましたね。菊池桃子さんはアイドルから転身して間もなかったのに、心境の変化をすごく上手に表現していると思います」
トレンディドラマが映すのは、まさに昭和から平成初めの日本社会の光景。Night Tempoさんは独特のバブリーな雰囲気を客観視しながら、切れ味鋭く語る。
「正直、三角関係や突然の海外赴任など、筋は似たり寄ったりですよね(笑)。構成のテンプレートが決まっているので、その頃のドラマに関しては、物語というよりも撮影ロケーションや衣装の豪華さという点で惹かれます。『東京ラブストーリー』はその意味で本当にクォリティが高い。全てのシーンが絵になるように作られているし、制作側の意気込みが伝わってくる。ファッションも、『こんなに派手な格好を普段からするか?この人のクローゼットは洋服でぱんぱんじゃないだろうか?』と突っ込みながらも、見応えがあって。僕自身、ダブルのスーツやレイヤードスタイルをドラマから取り入れたこともあります」
作品の性質と演出の方向性がうまく嚙み合っているかも、重視するポイントだ。
「日本の演出は、韓国や欧米に比べてオーバーアクトだと思います。アニメ文化に通じるのかもしれませんが、大袈裟な台詞回しや表情など。80年代から90年代前半までは、劇的なストーリーラインや華やかな世界観とその芝居がマッチしているんですよね。トレンディドラマの完成形が90年の『恋のパラダイス』。俳優たちのある意味過剰な芝居が、海辺で男女6人が恋の〝総当たり戦〟をするという弾けた話とぴったり。そして、00年代以降はアニメや漫画の原作が増えてきます。そんななか、僕が5回観たほど印象に残ったのが『ランチの女王』(02)。日常系と言うのでしょうか、地味な話をこんなに美しく描けるのかと感動。恋模様など少女漫画的要素もあるので、コテコテした演出もはまっていた。それまでケチャップライスは嫌いだったのですが、このドラマを観て初めてオムライスを食べました(笑)」
ミュージシャンとして、もちろん音楽との関係にも着目している。
「トレンディドラマは同じ主題歌がずっと流れているのが特徴的ですよね。僕も、素敵な作品との機会があればぜひドラマ音楽に挑戦してみたい。耳が楽しかった作品といえば『のだめカンタービレ』(06)。これの韓国版と呼ばれる『ベートーベン・ウィルス』(08)というドラマがあって。韓国でもクラシックブームが起こったんですよ」
深掘り精神と幅広い知識に支えられて、日韓の世を映すドラマを観続ける。
Illustration_Yutaka Nojima Text&Edit_Motoko Kuroki