ひとえに「移住」といっても行き先や働き方は十人十色。都会暮らしを経て、自然豊かな土地でイキイキと移住生活を楽しむクリエイターを訪ねる連載、第3回をお届けします。移住先ではどんな家で暮らしているの?都会との距離感は変わった?ぶっちゃけ大変なことばかり…?取材を通じて、GINZA的移住ライフのリアルな声を聞いていきたいと思います。
移住で叶えるニューライフ「自分のペースを維持できる、都心とのちょうど良い距離」
vol.03松田瑞季さん@相模原市藤野
第3回はフォトグラファーの松田瑞季さん。美術大学を卒業後、空間演出デザイン学科の助手を経て、写真家としての活動を開始。本誌でのポートレート撮影や、アーティストのxiangyuさんのミュージックビデオなども手がけています。2023年は、国内外のアートブックフェアでZINEを販売するなど、精力的に活動中。現在はパートナーである陶芸家の松本優樹さんと共に、相模湖のお隣、神奈川県藤野エリアの一軒家に暮らしています。創作意欲あふれるアーティストのお2人が選んだ藤野の魅力とは?
───お二人で藤野へ拠点を移されたきっかけを教えてください。
松田 もともと私たちは同じ美術大学の助手として働きながら、東京の端っこで一緒に生活していました。6年ほど前、お互い助手を終えたタイミングで、陶芸家であるマルボ(松本さんのあだ名)の制作にとってより良い環境であることを基準に引っ越し先を探し始めました。その頃から、都心部の生活が自分にはフィットしないとわかっていたので、東京を出て山の近くに住みたいと思っていて。実家が転勤族で幼い頃から都市部を転々としていた反動か、たまに行く茨城の祖母の家は自然に囲まれた場所で、そこで過ごす時間が一番ホッとしていたのをよく覚えています。家を探し始めた頃、ちょうど藤野の陶器市にマルボが出品する機会があり、手伝いも兼ねて何度か訪れていたんです。何度か通ううちに、2人とも藤野に惹かれていったので、この町に住みたい!と気持ちが固まりました。
松本 木工の作家も、僕のような陶芸の作家も、普段の制作は煙や音が出るので、住宅街ではなかなか難しいんですよね。だけど作品の発表はどうしても都心部のギャラリーやショップが多いので、東京からも遠すぎない藤野は、作家としてはとても住みやすい場所でした。僕の作品を置いてくださっているギャラリー&カフェ「スタジオフジノ」のオーナーさんと出会ったことも大きかったです。藤野に通ううちにオーナーさんと話すようになり、移住した方の話なども事前にいろいろお聞きできたんです。住む前から街の雰囲気をよく知ることができたので安心感もありました。2人とも撮影や作品発表は東京の方が多いので、都内から車で1時間という距離も魅力的でしたね。
───藤野に移り住もうと決めてから、現在の家はすぐに見つかりましたか?どんな条件で探されたのかも教えてください。
松田 思っていた以上に移住先として人気で、物件を探すのがめちゃくちゃ大変でした。毎年、藤野にあるシュタイナー(ドイツの哲学者ルドルフ・シュタイナーの人間観に基づく教育)の学校に入学する生徒さんがいるので、物件を探している家族がたくさんいらっしゃいます。私たちは「家の外にアトリエ付き、陶芸の作品をのびのび作れる環境」という条件で探したので、そもそも数が限られていて、現在の家は1年くらいかけてやっと出会えた場所でした。決めるまでに10軒くらい見て回ったんですけど、竹が床をぶち抜いて成長してる物件や、キャンプ場を通らないと家に帰れない物件、駅から絶対に歩いて帰れない山奥の物件など……とびきりハードな物件が多かったので諦めようと思った矢先に、ここの空きが出たんです。一度リフォームされていたので水回りも綺麗だし、すぐに住める環境だったので決めました!大きな本棚や箪笥など、いくつか家具も置かれていて。膨大なリフォーム資金がなかった私たちにとって、またとない魅力的な物件でした。レトロなデザインの照明とか、なかなか出せない、おばあちゃんの家感もお気に入りです。
Photo_Mizuki Matsuda Text_Satoko Muroga