キャッシュレスで買い物を楽しみ、タピオカをたくさん飲んでラグビーに湧いた2019年。一年経つのがどんどん早くなるけれど、好きなものは増え続けるからDigるのはやめられない。そんな好奇心旺盛に今年もめいっぱい楽しんだみなさんに、“2019年のMYベスト3”を聞きました。床と建築が大好きな編集者、西村依莉さんが見つけた素敵なビルとは?
2019年のMYベスト。編集者、西村依莉さんの美しいビルBEST3

西村依莉/編集者・ライター
@po_polka
いつもなんとなく歩いている見慣れた街。見過ごしがちだけど、実は素敵なデザインの建物が佇んでいたりします。私がつい足を止めてしまうのは、1950〜70年代に建てられたビルが圧倒的に多いです。この時代特有の装飾や有機的でスペイシーなデザイン、職人の手仕事を感じる実直でちょっと歪(いびつ)なディテール。そして時を重ねているからこそ醸される経年の味わい。
そんな高度成長期に建てられた “いいビル”を愛でに東京を練り歩く「東京ビルさんぽ」に参加して、メンバーと一緒に東京のいいビルを『いいビルの世界 東京ハンサム・イースト』(大福書林)という本にまとめたり、他にも同時代の様々な片鱗を記録すべく細々と活動しています。
GINZA編集部より“今年見つけた美しいビルBEST3”というお題をもらったものの、ベストなんて絞れない! と葛藤の末、テーマ別に今年印象に残った建築を3つ、ご紹介させてください。
1.【公共施設編】横浜市庁舎
JR関内駅のすぐそばにある横浜市庁舎は、1959年9月に建築家の村野藤吾の設計で横浜港開港100周年を記念して建立。階ごとに位置がずれている窓とバルコニーや、外壁にむき出ている梁と柱がモダンでかっこいいのですが、ぜひ中にも入ってほしい。彫刻家の辻晋堂によるグラフィカルなレリーフに囲まれた吹き抜けの市民広間は圧巻です。大切にメンテナンスされているので古めかしさは感じませんが、2020年6月に馬車道駅のそばに建設中の高層ビルへ移転が決定。現市庁舎はホテルとして保存活用されることに。壁画は移設・復元されるそうですが、市民広間は取り壊されてしまうので、大理石のパーテーションと合わせて見るなら今がチャンスです。
2.【商業施設編】ヤマテボウル(山形県鶴岡市)
山形県鶴岡市を旅した時に、地元出身の知人に教えてもらったボウリング場は夏一番の感動でした。1972年のボウリングブームの真っ只中にオープンして以来、改装することはなくほぼそのままの状態。外観はさすがに少し年季を感じるけど、それも今すぐには作り出せない経年という味。2階にはビリヤード場と卓球場がある、鶴岡の娯楽を担う施設です。オープンした当時とは経営者が変わってしまったためコンセプトなどは不明ですが、入ってすぐにあるボウリングの球を思わせるランプや、場内の椅子のチョイス、Pタイルの張り方などに設計者のセンスが光っています。
3.【マンション編】中銀カプセルタワービル(銀座)
真新しいビルが立ち並ぶ汐留エリアにある、ひときわ目を惹くスペイシーな古いビル。建築家・黒川紀章の代表的な作品です。今年初めて週末ごとに開催している見学会に参加して、内部の宇宙船的な可愛らしさをしっかり見てきました。中央のエレベーター塔には140のカプセルがぐるりと螺旋状に取り付けられていているのですが、「積み重ねているわけではない」と言葉で聞いてもピンとこなかった部分を見ることができて、納得と感激でした。完成当初の部屋にも入れてもらえるので、心地いい狭さも体験できました。見学ツアーはこちらから!
令和を迎え、街の様子はどんどん変貌していきます。現代とはまた違う技術や創意工夫が見られる“いいビル”はもはや文化財。古いと保存にコストがかかるから、壊して建て替える方がいい…など、古いビルがなくなる理由は多々あるかもしれません。でもどこかで見たことがあるようなピカピカの建物ばかりがある街よりも、重ねた時間の層を感じる街の方が好き。2020年も出かけた先で、いいビルや昭和中期の文化を感じるものを見つけたいと思います。
また中銀カプセルタワービルの見学会が縁で、実際にカプセルで暮らす人の様子やインテリアを2020年1月に発売の書籍『昭和インテリアスタイル』(グラフィック社)で取材させてもらいました。この本は、昭和中期の国内外のインテリアを愛する18人の家を紹介しているので、いいビルに興味がある人はもちろん、ミッドセンチュリーや北欧、昭和、スペースエイジなどのインテリア好きの方にも楽しい内容となっていますので、ぜひ見ていただけたらと思います。