有楽町・丸の内・銀座エリアの交わる場所。東京のド中心にとても優雅で広々とした空間があるのを知っていますか。都心で天を見上げて深呼吸できる、そんな建築を訪ねます。#東京ケンチク物語
贅沢な空間体験ができる、都心の静かなオアシス「東京国際フォーラム」:東京ケンチク物語 vol.22

東京国際フォーラム
TOKYO INTERNATIONAL FORUM
本来は、とても騒々しい場所だとしてもおかしくないんだよな……。とふと思う。有楽町駅から東京駅へ至る線路沿いの敷地に建つ「東京国際フォーラム」のこと。人も車も電車も、相当数が行き交うエリアにあるのに、ここはいつ来てもゆったりとして抜けがよく、静か。ヨーロッパ辺りの堂々とした広場やミュージアムを思い出す、なんとも余裕ある雰囲気が漂うのだ。この空気感をつくる要因のひとつは、ほかでもない建築そのもの。日本初の国際公開設計コンペで選ばれた、ウルグアイ生まれでアメリカ在住の建築家、ラファエル・ヴィニオリの設計による1996年竣工の作品だ。
大小のコンサートや国際会議、展示会などを行う施設であるこちら、8つのホールと30以上の会議室、ショップ・レストラン群や美術館など、詰め込むべきものが案外多い。ヴィニオリによるプランは、線路に沿ってガラス棟を建てて会議室を収め、通路を兼ねる広場を挟んでホール棟を建てるもの。ガラス棟が巨大なバリアとなって線路側からの雑音を防いでいるというわけだ。……とこう書くと、なんだか閉鎖的な建築のように思えるけれど、実際はその真逆。
たとえば全長200mを超える細長いガラス棟は、その名の通りのガラス貼りで、地下1階のロビーから高さ約60mの巨大なアトリウム(吹き抜け)が広がる。ロビーのベンチ(ヴィニオリ監修のこのベンチも座り心地最高だ)に腰かけて見上げると、はるか高い天井の上には東京の空。それが刻々と変化する様や、有機的なフォルムの鉄骨の構造体としての美しさを眺めるうちに、時間を忘れて過ごしてしまう。
さらに、このガラス棟に沿って展開する石貼りの広場も、この建築が持つ開放感の立役者だ。周囲の通りからつながる、歩行者専用のオープンスペースには、ところどころにパブリックアートが置かれ、今や大きく育った木々が木陰をつくる。建物自体に用事がなくとも、通りかかる人々が好きに使える、守られた公園のよう。
「守って、ひらく」ことで生まれた、贅沢な空間体験のできる場を内包する建築。せわしない時にこそ訪れたい、東京の大切なオアシスだ。