知っておきたい日本の言葉、季節のあれこれ。
ギンザ淑女のニッポン歳時記 新緑の小さな芽吹きにエネルギーをもらえる「芽張り柳」

芽張り柳(めばりやなぎ)
3月も半ばを過ぎると桜の開花ばかり話題にのぼりますが、柳の新芽が薄黄緑色に芽吹いて風にゆれる美しさにもハッとさせられます。しだれ柳のことを糸柳とも言い、糸のような枝に細かい芽がずらりとついている様子を「芽張り柳」あるいは「芽柳」と表現します。意匠化されて、茶道具の棗(なつめ)の蒔絵に多く描かれました。花を見ずとも、新緑の小さな芽吹きにエネルギーをもらえます。
今月の神様
庚申さん(こうしんさん)
中国の道教では、庚申(かのえさる)の日の夜に人間の体内にいる三尸(さんし)という虫が、睡眠中に抜け出して天に昇って悪行を報告し、天帝は報告を受けてその人の寿命を縮めるという伝説がありました。そのため人々はその晩、寝ずに寄り集まり、語り合って過ごしたとか。その時に祀られたのが庚申さんで、三尸を食うと考えられていた青面金剛(しょうめんこんごう)を祀り、申(さる)つながりで三猿が描かれ、猿が手足を1つに縛られた姿を模した「くくり猿」を布と綿で作ってぶら下げて欲望を抑えることを意味しました。庚申は60日に一度巡ってきます。
今月の文様小物
六瓢の蓋物(むびょうのふたもの)
瓢箪(ひょうたん)は、中身を取り除き乾燥させて酒器にしたり、2つに割って椀がわりに使ったり、日本人の生活になじみ深い植物です。この瓢箪が3つそろえば「三瓢」=「三拍子」となりおめでたい、6つそろえば「六瓢」の語呂が「無病息災」に通じるということで、縁起のいい文様と言われました。また種が多いことから子孫繁栄の意味も込められたとか。デザイン的にも愛らしい瓢(ひさご)の文様の漆器や陶磁器を見かけたら、数を数えてみてください。
赤絵六瓢 4寸蓋物 ¥8,000(福泉窯 | まるぶん)
今月の和菓子
糊こぼし(のりこぼし)
赤い花弁に白い斑点が入った花が、紅染の紙に点々と糊をこぼしたようなのでこの名がついた椿。毎年3月の「お水取り」の行事で有名な東大寺二月堂。その隣にある開山堂にこの椿が咲きます。僧侶らは紅染と白の和紙で糊こぼし椿の造花をたくさん作り、本物の椿の枝に取りつけて、約2週間にわたる本行(修行)の間、二月堂内を飾ります。糊こぼしとひとこと言えば広がるイメージの連想ゲームです。
糊こぼし 6個入り ¥2,630 *2月上旬〜3月中旬の販売(萬々堂通則)
*「ギンザ淑女のニッポン歳時記」は2021年3月号で連載終了となります
Photo: Chihiro Oshima (wagashi), Hiromi Kurokawa (komono) Illustration: Hisae Maeda Text&Edit: Mari Matsubara