先日六本木で行われたLOVE PSYCHEDELICOのライブ『How is your Love?』に足を運びました。これがちょっと変わったライブで、その内容はというと「新作アルバムリリース前のプレビューライブ」というもの。
LOVE PSYCHEDELICOは2000年にシングル『LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~』でデビュー。翌年1月にリリースしたデビューアルバム『THE GREATEST HITS』が200万枚を超える大ヒットし、現在までにシングル14枚、オリジナルアルバムを6枚リリースしてきた、結成20年のベテラン。彼らとしても今回のライブは初の試みだそうです。
タイムラグゼロ。新作制作中のアーティストの最新モードを堪能できる充実のライブ
雨の六本木。会場にたどり着くと、平日の夜にも関わらず、会場にはたくさんのお客さんが集まっています。久しぶりのライブであるということはもちろん、プレビューされる新作アルバムのタイトルも詳細も発表されていないということもあり、多くのファンが期待を胸に膨らませている雰囲気が漂っていました。
メンバーがステージに登場し、ライブスタート。1曲目の「C’mon, it’s my life」から、続く「Feel my desire」へと2曲連続で新作の楽曲からスタート。それにもかかわらずオーディエンスはしっかりとハンドクラップで対応したりと、初めて聴く楽曲とは思えない反応です。
「こんばんは。LOVE PSYCHEDELICOです。今日はみんな来てくれてありがと。みんな元気にしてた? みんなに会えてほんとうにうれしい」というKUMIのMCからも分かる通り、2年ぶりのワンマンライブとなった彼ら。その近況報告や再会も兼ねたかのような温かい雰囲気がEX THEATER ROPPONGIに広がっていました。
そしておそらくアルバムからのリードトラックとなるであろう、妖艶でどこかラテン調曲調を感じさせる新曲「Might fall in love」。昨今「リリックビデオ」と呼ばれる、歌詞を重要な要素として扱った簡易的なMVがプロモーション用に作られる事例が見られますが、この日のライブでも新曲の多くにそうした映像が用意されスクリーンに投影されるという工夫も。
「今夜はもうすぐリリースされるニューアルバムから新曲を何曲か演奏しようと思ってます。書いてる書いてると言いながら前のアルバムから四年経っちゃって。待ちきれなくて(みんなに)来てもらいました」と話し、アルバムのタイトル『LOVE YOUR LOVE』とリリース日7月5日を発表。ちなみにアルバムはまだ制作中とのこと。
LOVE PSYCHEDELICOらしいレイドバックしたロックンロールや、ビートルズ「ヒア・カムズ・ザ・サン」を思わせるようなさわやかな楽曲など、6曲目までをすべて新曲でセットリストを組んだ序盤に対し、中盤は「No Reason」、「Calling You」、「It’s Ok, I’m Alright」といった現時点での最新作『IN THIS BEAUTIFUL WORLD』からの楽曲を多めに、新体制による現在のLOVE PSYCHEDELICOのモードを表現しているのが印象的でした。どこかリラックスした雰囲気と、新しい驚きを見せてやろうといういたずら心のようなものが見え隠れする演奏は、現在も新作を制作中だというアーティストならではの表現かもしれません。
そして終盤からアンコールにかけては「Your Song」「Freedom」「LADY MADONNA~憂鬱なるスパイダー~」「Free World」といった人気曲を次々披露。これにはひさしぶりに彼らのライブに足を運んだファンも満足した様子で、会場中から大歓声が。
4年ぶりとなる新作からの楽曲をプレビューできるだけでなく、既発曲を現在のバンドモードで披露。そしてヒット曲もきっちりと演奏して盛り上がった充実のライブでした。
「音楽飽和時代」における、新作プロモーションの新しいかたち
今回のライブを観て「リリース前の新作」と「ライブ」という共通項から思い出したのが、アメリカのロックバンドR.E.M.が「New Adventures in Hi-Fi」のベースとなる素材をライブツアー中に(ステージ上での演奏も含めて)レコーディングしたというエピソード。ただ、今回のケースはちょっとそれとは違いますね。おそらくは2015年12月、上原ひろみがブルーノート東京にて7日間連続で行った、リリース前のアルバム『SPARK』からの楽曲を中心としたライブが今回のケースと最も近い事例ではないでしょうか。
ここ数年「どんな音楽を聴けばいいのか分からない」という声がよく聞こえてきます。
フリーDL作品の増加や、Apple MusicやSpotifyといった聴き放題的なサービスの普及にともない、リスナーが音楽的迷子になってしまいがちなのが現状。
それはミュージシャンにとっても問題で、いかに新作リリースにあたって話題を作り「聴くべき作品」だと認識してもらうかに、多くのアーティストが苦心しています。ユーザーに値付けを任せたレディオヘッドの2007年作「イン・レインボウズ」(元々は問題提起的な部分も大きかったのですが)に始まったフリーDLでの作品発表から、昨今ではサブスクリプションサービスの台頭に伴い、周到なプロモーションの流れを作ってーーもしくは直前まで完全シークレットでーーのサプライズリリースにその手法が移ってきているように思えます。
昨年ではリアーナ「アンチ」、ビヨンセ「レモネード」、カニエ・ウェスト「ザ・ライフ・オブ・パブロ」、フランク・オーシャン「ブロンド」、そしてここ日本ではHi-STANDARDの新作といった話題作が、そうした手法のもとにリリースされました。2017年もその流れは健在。アトランタのラッパーであるフューチャーが新作アルバムを2週連続でサプライズリリースしたり、ケンドリック・ラマーがサプライズリリースしたシングルの中にアルバム発売日のヒントを発表したりと、リリースにさまざまな工夫がこらされています。
この日、まだ完成していないという「制作中の新作アルバム」の楽曲をプレビューしたライブからは、そうしたアルバムへの期待をふくらませる、新しいアルバムプロモーションのかたち。そして制作中だからこそのアーティストの手探り感も見える、新しいライブのかたちを観た気がしました。