「葛西薫展 NOSTALGIA」ポスタービジュアル
時代を生み出してきたデザイナーの現在地 葛西薫展 NOSTALGIA@ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)

現在、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで、同ギャラリーではおよそ30年ぶりとなる、葛西薫の個展が開催されている。今回の展覧会では、葛西本人がその語感が大好きと決めた「NOSTALGIA」(ノスタルジア)をテーマに、新作から過去の代表作までを見ることができる。
1階展示風景 筆者撮影
葛西は、「サントリーウーロン茶」や「ユナイテッドアローズ」等の広告のみならず、パッケージ、CI、サイン計画ほか、小説や詩集の装幀や映画、演劇関連のグラフィック、動画制作など、多方面でめざましい活躍をしてきた。葛西の仕事と認識していなくても、必ずどれかは知っているものがあるはず。
1階展示風景 筆者撮影
30年ぶりとはいえ、メインの展示室にあるのは、新作の数々。大きく引き伸ばされたイメージには、どれも「NOSTALGIA」という言葉がレイアウトされている。「ノスタルジア」と言えば、「郷愁」、「望郷」などの意味を持ち、同タイトルのタルコフスキーの映画も有名だ。葛西はそれを、「意味のないもの、分からないものへの興味。その深層にあるもの」と語っている。
展示風景 筆者撮影
そして、葛西が考える「NOSTALGIA」は、手作業から生まれるという。定規を使うこと、墨を磨ること、絵具を絞り出すこと、鉛筆を削ることなど、そこに生ずる懐かしい匂いや音の輻輳…。それは、葛西の身体に宿る太古の原始的な感覚を呼び起こす。たしかに、よく見るとフリーハンドのドローイングの力強さや、幾何学的に設計された跡が見える線がそこかしこにある。
地階展示風景 筆者撮影
自分の手(宇宙)を通して湧き出てくる、「創作の断片を編集する喜び」。葛西がこう語るように、この展覧会には、過去の作品の断片が編集されることで新たな作品へと生まれ変わったものが多数ある。だからか見ていくうちに、今の葛西自身が過去を見直すことで、むしろ本人の現在の眼差しがはっきりしてくるような感じがする。それは、いわゆる回顧展とは異なるアプローチと言えるだろう。
これまで葛西が装丁を手掛けた本の数々 筆者撮影
地階会場では、新作のほか、ブックデザインを中心に、プロダクト、オブジェなど、多面的な創作活動が並ぶ。「とらや」や「Arts & Science」のパッケージの仕事など、GINZA読者になじみ深いものも多々あるはず。意外なところでは、「みんなのうた」のアニメーションなんかもある。2階のライブラリでは、ポスターの代表作や葛西が演出を手がけたCM作品の一部を上映。シリーズ展開される「サントリーウーロン茶」のCMなど、まとめて見直すことで、その特異な世界観を改めて味わえる。
時を超えて何度でも繰り返し輝くクリエイションの力を、ぜひこの展覧会で感じてほしい。
地階展示風景 筆者撮影
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葛西薫
1949年北海道札幌市生まれ。文華印刷、大谷デザイン研究所を経て、1973年サン・アド入社。現在同社顧問。サントリーウーロン茶、ユナイテッドアローズ、とらや、TORAYA AN STANDなどの広告制作およびアートディレクションのほか、CI・サイン計画、映画・演劇のグラフィック、タイトルワーク、ブックデザインなど、活動は多岐にわたる。東京ADCグランプリ、原弘賞、毎日デザイン賞、亀倉雄策賞、などを受賞。著書に『図録 葛西薫 1968』(ADP刊)がある。