見過ごしてしまうような風景も、作品の中ではいつもとは異なる表情に映るもの。GINZAでおなじみのライター陣が紹介するのは、実在の場所が登場するおすすめの作品。思わずロケ地巡りに出かけたくなる、あのシーンの舞台、ここなんです!
🎨CULTURE
さまざまなかたちの友情が在る場所。あの本の舞台になったのは? 中島京子『夢見る帝国図書館』

『夢見る帝国図書館』(19)
中島京子
上野公園(東京都台東区上野公園・池之端3丁目)
小説家の「わたし」は回想する。喜和子さんに出会った15年ほど前のこと。当時ライターだった「わたし」は、取材のあと、上野公園の噴水が見えるベンチに座った。奇抜な服装の60歳くらいの女性が隣に腰を下ろした。それが喜和子さんだった。数カ月後に偶然再会。家に誘われ、少し親しくなった。それからしばしば、上野公園のベンチで一緒にランチをするように。喜和子さんは「ここらへん一帯」の歴史を生き生きと話してくれ、「上野の図書館のことを書いてみないか」と「わたし」にもちかけた—。
ある女性の生きた証をその次の世代がたどっていくという、スリリングで奥深い物語。2人の友情が始まった上野公園(正式名称・上野恩賜公園)は、日本で最初の都市公園であり、その歴史は140年以上。膨大なコレクションを誇る東京国立博物館をはじめ、世界文化遺産に登録された建物も有名な国立西洋美術館、上野動物園など多数の施設が集まる文化の拠点でもある。JR上野駅・公園改札を出ると、東京の真ん中とは思えない広々とした道が人々を誘う。花々や樹木の種類も豊富で、特に7月下旬に見頃を迎える不忍池の蓮は極楽の美しさだ。
『夢見る帝国図書館』(19) 中島京子 文春文庫/¥891
Illustration: Toshikazu Hirai Selection&Text: Hiroko Kitamura Edit: Tomoko Ogawa